井の頭自然文化園で現在12頭展示しているフェネックは、世界で一番小さいキツネのなかまです。おとなでも体重は1キロ前後しかありません。体温調節に役立つ大きな耳や、砂の上も歩けるように毛でおおわれた足の裏など、暑い砂漠でのくらしに適応した身体をしています。
そんな砂漠でくらす野生動物としてのフェネック本来の姿を皆さんに見てもらいたいと思い、今回、放飼場を改修しました。外国の動物がくらす環境を完全に再現することはできませんが、手に入るものでなるべく自然に近づけた展示になるよう工夫しました。
新しく入れた砂漠風のベージュ色の砂は、ゴルフ場のバンカーや水処理の濾過に使うために輸入されている韓国産の「珪砂」です。植え込み内と運動場のまわりは、サハラ砂漠の約70パーセントを占めるという「礫砂漠」(れきさばく。2ミリ以上の粒で覆われた砂漠)の雰囲気を出すため、岐阜産の茶色い「チャート砕石」を敷き詰めました。
2日かけて改修を行った翌朝、フェネックたちがどんな反応をするかドキドキしながら放飼場に戻したところ、全頭が私の予想をはるかに越える大はしゃぎ振りを見せてくれました。その反応があまりに面白く、思わず動画を撮りましたので、どうぞごらんください(1分)。
砂漠出身の動物としての血が騒いだのでしょうか、ギャーギャー鳴きながら追いかけっこをしたり穴を掘ったり、ベタッと寝ころんで全身で砂の感触を味わったり、映画の早回しのようにコミカルに動き回り、とにかく楽しそうなフェネックたちの姿に、担当者としては心底喜びを感じました。
改修から3週間程経った今、行動はさすがに落ち着いてきましたが、開園直後や夕方にはときおり追いかけっこする姿が見られます。若い個体のみならず、これまであまり動かなかったおばあちゃんフェネックまでもが身軽に走り回るようになりました。
ほとんど寝て過ごす日中も、全身を伸ばして砂にひたって(?)いたり、顔を砂にうずめていたり、実に気持ちよさそうな寝姿を見せています。夏休みも残りわずか。あたらしい放飼場のフェネックたちにぜひ会いにきてください。
写真上 新しい放飼場
写真下 砂の色と同化するフェネック
〔井の頭自然文化園飼育展示係 高松美香子〕