多摩動物公園の昆虫生態園ではナガサキアゲハを飼育しています。あまりなじみのない名前かもしれませんが、園内でも見られる国内最大級のチョウです。
ナガサキアゲハはインドや中国南西部、日本、台湾、インドシナなど、東アジアから東南アジアにかけて分布しています。国内では、かつては本州西南部から南西諸島にかけて分布していましたが、現在は温暖化により分布を北に広げています。国内の個体は、後ろ
翅 に尾状の突起がないことが大きな特徴で、国内のほかのアゲハチョウとは簡単に見分けることができます(国外では尾状突起がある個体も見られます)。ただ、稀にこの突起がある個体が国内で見つかることがあります。
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ナガサキアゲハ(メス) | 尾状突起をもつクロアゲハ |
オスはほとんど全身真っ黒で、
翅 の裏側に赤い斑紋を備えた非常にかっこいい姿をしています。一方、メスはオスに比べて全体的に白く、美しい姿です。メスは南の個体の方が白い部分が多くなる傾向があります。

ナガサキアゲハ(オス)
ナガサキアゲハの幼虫には、ナツミカンなどの栽培ミカン類を与えて育てます。クロアゲハなどのほかのアゲハチョウの幼虫と比べると白っぽい体色をしているのが特徴です。成虫が大きいため、幼虫もとても大きく育ちます。そのため、終齢幼虫になると毎日大量のミカンの葉を必要とします。ナガサキアゲハを育てるときにもっとも苦労するのは、この時期に良質で大量のえさを用意することです。

ナガサキアゲハの終齢幼虫
生態園では、しばしばナガサキアゲハが交尾しているところを観察することができます。
ほとんどの場合、ナガサキアゲハどうしで交尾をおこなっているのですが、稀にナガサキアゲハのメスとシロオビアゲハのオスが交尾しているおもしろい光景を見ることがあります。また、交尾までは行かずとも、ナガサキアゲハのメスにシロオビアゲハのオスがアプローチをかける姿もよく目にします。体が大きく、色合いもシロオビアゲハに似ているナガサキアゲハのメスは、シロオビアゲハのオスにとってはとてもよいメスに見えるのかもしれません。
ちなみに、シロオビアゲハと交尾したナガサキアゲハのメスからとれた卵は孵化しませんでした。しっかりと生殖的隔離は働いているようです。

ナガサキアゲハのメス(上)とシロオビアゲハのオス(下)の交尾
ナガサキアゲハは、ほかのアゲハと簡単に見分ることができ、大きくて目立つうえに日中は割と活発に飛んでくれるチョウです。生態園にお越しの際には、ぜひ彼らを探してみてください。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 城〕
(2022年06月17日)