環境省および東京都が飼育下繁殖の実施などにより生息域外での増殖に取り組んでいる国内希少野生動植物種オガサワラシジミについて、飼育下のすべての個体が死亡し、繁殖が途絶えましたのでお知らせします。
今回の結果を重く受け止め、今後、専門家を交え、飼育下個体が途絶えた原因を分析し、教訓として絶滅危惧種の保全対策に活かしてまいります。
オガサワラシジミの成虫(オス)
1.経緯
絶滅危惧種のオガサワラシジミについては、小笠原諸島で分布が記録されていますが、外来種のグリーンアノールの影響等により、1990年代までに父島列島で姿を消し、近年、母島で見られるのみとなったため、関係機関、団体、専門家、地域住民などと、生息域内外での保全対策に取り組んできました。
その一環で多摩動物公園と環境省新宿御苑においてオガサワラシジミの累代飼育にも取り組んできましたが、今春から個体の有精卵率が急激に低下し、繁殖が困難となり、2020年8月25日に飼育していたすべての個体が死亡しました。
保全対策の経緯
2005年 | 東京都が多摩動物公園において飼育下での繁殖の取組みを開始 |
2008年 | 種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定 |
2009年 | 種の保存法に基づく保護増殖事業計画を策定 関係機関と連携しながら、生息状況の調査や外来種対策などの保全対策を開始 |
2016年 | 多摩動物公園において、園内施設を使用した交尾に成功し方法を確立 |
2017年 | 多摩動物公園において、1年以上の継続した累代飼育にはじめて成功 |
2018年 | 公的機関による生息状況調査では母島において個体が確認されなくなる |
2019年10月 | 環境省が多摩動物公園から個体を譲り受け、新宿御苑で飼育下繁殖を開始 |
2020年4月 | 多摩動物公園および新宿御苑における有精卵率の顕著な低下 |
2020年7月 | 新宿御苑において飼育していた全個体が死亡 |
2020年7月、8月 | 母島において個体確認調査をおこなうが、確認なし |
2020年8月25日 | すべての個体が死亡(多摩動物公園20世代目の幼虫) |
※飼育中に死亡または衰弱した成虫25個体、幼虫5個体の合計30個体(一部個体については生殖器官のみ)について、適切な保存処理を施したうえで、大学共同利用機関法人自然科学研究機構基礎生物学研究所および一般財団法人大日本蚕糸会蚕業技術研究所において、液体窒素による凍結保存を実施。
※参考資料
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オガサワラシジミについて(PDF、約200KB)
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オガサワラシジミに関する主要なできごと・取組(PDF、約210KB)
2.繁殖途絶の要因について
現時点では、有精卵率が急激に低下し繁殖途絶に至った原因は不明ですが、専門家による調査の結果、新宿御苑の個体ではオスの精子量の極端な低下が短期間に観察され、近親交配による有害な遺伝子の蓄積(近交弱勢)が生じたことが繁殖途絶に至った要因のひとつとして指摘されています。
3.専門家による談話について
保護増殖事業として実施している生息域外個体群が途絶えたのは初めてのことです。環境省としては、本件について重く受け止め、保護増殖事業計画を審議する機関である中央環境審議会自然環境部会野生生物小委員会の委員長および、保護増殖事業計画に基づき設置されたオガサワラシジミ保護増殖検討会の座長に要請し、現時点での考察を談話の形でいただきました。
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中央環境審議会自然環境部会野生生物小委員会の委員長の談話(PDF、約130KB)
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オガサワラシジミ保護増殖検討会の座長の談話(PDF、約160KB)
4.今後の対応について
本種は2018年6月を最後に、母島においても個体が確認されていない状況が続いており、今回、生息域外個体群が途絶えたことは、本種の保存にとって非常に危機的な状況と認識しています。
種の保存法に基づくオガサワラシジミの保護増殖事業を実施する国と都としては、専門家による談話の内容を踏まえ、次の点について、今後の対応を検討してまいります。
- これまでの保護増殖事業の内容について、有識者を交えて科学的に検証し、生息域外個体群が途絶えた原因について分析を実施します。
- 生息域内における本種のモニタリングの継続に努め、生息が確認されれば、生息域外保全をはじめとする保護対策に速やかに取り組みます。
- このたび早期の保護増殖事業の策定・実施の重要性が再認識されたことを踏まえ、そのほかの絶滅危惧種についても、今回の件を教訓とし、関係機関などと連携しながら、絶滅危惧種の保全対策に取り組んでまいります。
【動画】オガサワラシジミの成虫(オスとメス)(2020年08月27日)