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カワネズミの展示再開!
 └─多摩  2015/12/04

 多摩動物公園の「モグラのいえ」に入ると、すぐ右側にカワネズミの展示水槽があります。しかし、昨年(2014年)10月以来、カワネズミの展示は途絶えていました。1年以上にわたって照明を消して準備中だったのですが、けっして展示をあきらめていたわけではありません。昨年11月からこの一年間に採集を9回おこない、ようやく11月26日から展示再開にこぎつけました。


 カワネズミは河川の上流の清らかな水辺だけに生息しています。とくに東京では、そうした美しい環境も少なくなってしまいました。また、きれいな河川ならどこにでもいるというわけではありません。カワネズミの情報を検索していると釣り人のブログに行き当たることが多いのですが、「○年前にはよく見られたのに最近姿を見なくなった」という情報が目につきました。実際の生息情報をたよりに河川に採集しに行っても、空振りに終わることが何度もありました。釣り人たちの情報どおり、減少傾向にあるのかもしれません。

 またカワネズミは、捕獲や飼育がとても難しい動物でもあります。採集が終わるたびに自分なりの改良を加え、生存率を上げるために捕獲用トラップを改造したり、持ち帰るケースに入れる身を隠すためのパイプや餌皿を作り直したり、持ち帰った後に収容するケースの構造や餌の種類・量なども何度も検討を重ねたりしました。生息密度の高い動物ではありませんから、ひとつの河川で捕獲を繰り返すことは避け、採集場所をなるべく変えるよう心がけました。

魚を食べるカワネズミ
泳ぐときには銀色に見える

 こうした工夫の結果、今回の2頭は元気な状態で捕獲し、落ち着いた状態で持ち帰ることができました。園への到着後、飼育ケース内で跳躍を繰り返し、落ち着かないようすだったので、ケースの天井を低くして無駄な消耗を抑えました。

 丸一日経つと不思議なほど落ち着いて過ごすようになり、えさにも慣れてしっかり食べてくれるようになりました。ところが、これで一件落着とならないのがカワネズミです。というのも、川に入って魚を捕ってくらしているのに、体が濡れたままだと消耗してしまうという矛盾した性質をもっているのです。


改良したカワネズミ展示水槽

 展示水槽は上段と下段の2層構造になっています。下段に渓流を模した水槽があり、上段には小部屋と給餌ケースと巣穴があります。この展示水槽に手を加え、上部にパイプを拡張するとともに小部屋を3つ増設し、吸水性の高いマイクロファイバー足拭きとマイクロファイバータオルを入れました。また、給餌室周辺にもマイクロファイバー足拭きを配して、動き回るだけで身体が乾かせるようにしました。

 さらに、給餌室上面と展示水槽上部に2台の扇風機を設置し、体が乾くように工夫しました。給餌室手前の小部屋は床にパネルヒーター、天井に温熱球をつけ、体が乾かせるようにしてあります。えさが乾燥してしまうのが唯一の欠点ですが、カワネズミは落ち着いて生活しており、身体もよく乾いていて快適そうです。

 「そこまでして展示しなくてもいいんじゃない?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、身近にいる動物でありながらあまり知られていないモグラのなかまたちを紹介するのが「モグラのいえ」の使命です。まだ試験的な部分も多く、一日でも長生きしてくれるよう試行錯誤を繰り返す毎日ですが、モグラのなかまでありながら漁をする珍しい動物カワネズミを、多摩動物公園にぜひ見に来てください。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 熊谷 岳〕

(2015年12月04日)


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