上野動物園では、2012年３月25日、26日にジャイアントパンダの交尾行動が確認されています。メスの「シンシン」の近況と今後の予定についてお伝えします。

１．健康状態　（※【参考】もごらんください）
　健康状態は以前と変わらず良好ですが、食欲等に変化が認められています。

（１）体重
　2012年６月25日現在：127kg。前回2012年６月５日から３kg減りましたが、目立った変化はありません（６月15日はシンシンが体重計まで移動しなかったため計測していません）。

（２）食欲
　竹を食べている時間と採食量に６月７日から減少傾向が認められ、本日までこの傾向が継続しています。

（３）行動
　休息する時間が長くなり、寝室で寝ていることが多くなりました。本日まで同様の傾向が認められています。

２．体の変化　（※【参考】を参照）
　2012年６月14日には、乳頭がわずかに見えるようになりましたので、注意深く観察したところ、乳頭が大きくなっていることが確認されました。

３．ホルモン値　（※【参考】を参照）
　2012年６月20日までの尿の分析結果において、目立った変化は認められていません。
　６月19日に採取した血液の分析結果で、プロゲステロン（妊娠に必要な黄体ホルモン）値の上昇が認められました。

４．現在の状況についての見解
　食欲、行動、体の状態、ホルモン値などについて、妊娠に特徴的な変化が見られるようになりました。ただし、ジャイアントパンダには「偽妊娠」という現象が知られており、確定診断は困難です。

５．その他の情報
（１）パンダ舎の一室に「オリ」を設置
　双子が生まれた場合や出産しても子どもを育てない場合を想定し、人間が手を入れて子どもを取り上げられる構造のオリを設置しました。

（２）保育器の準備
　取り上げた子どもを人工保育する場合に備えて、新生児用の保育器を用意しました。

６．今後の予定
（１）健康状態及び体の変化について、引き続き観察し、ホルモン値の調査をおこないます。

（２）2012年６月27日（水）から、オリのある部屋にシンシンを誘導する訓練を開始します。そのため、シンシンの姿が見えなくなることもあります。


【参考】

◎シンシンの体重について
　健康状態に変わりがなくても、与える竹の状態や体重測定のタイミングによって、10kg程度の変動が認められます。　

◎ジャイアントパンダの繁殖等に関する
　　　　　　　　　　　一般的傾向について
１．性成熟
　性成熟はオスで6.5～7.5歳、メスで3.5～4.5歳。

２．繁殖期
　繁殖期は一般的に２～５月。秋に発情するケースもある。繁殖期には、行動量の増加、臭い付け、水浴びによる体冷やしの増加、食欲減退、恋鳴きなどが見られる。発情期間は２週間あるが、そのうち受精できるのは数日間だけである。

３．妊娠期間
　交配後、83～200日の妊娠期間を経て出産する。妊娠期間は個体差がある。これは、着床遅延（※）があるためで、受精してから着床するまでの時間が１日のものもあれば数週間かかるものもある。着床までの時間によって妊娠期間が変わる。

４．妊娠時に認められる変化
（１）食欲の変化
　出産の30日前頃から食欲が減退し、餌を残すようになる。出産間際には食欲が廃絶する。

（２）行動の変化
　出産の15日前頃より巣作り行動が認められる。出産間際には行動が不活発になる。

（３）体の変化
　出産の30日前頃に乳頭が確認されるようになる。出産間際には陰部の腫脹、乳房の腫脹が認められる。

（４）ホルモンの変化
　出産前の3.7週～8週に尿中のプレグナンジオール（妊娠の維持に必要な黄体ホルモンが代謝された物質）値の上昇が認められる。出産間際にはこの数値が下がる。
（血液で検査した場合には、プロゲステロン（妊娠に必要な黄体ホルモン）値が上昇する）

５．妊娠の確認
　妊娠時に認められる変化により推測するが、偽妊娠（※※）という生理現象がみられるため、確定診断は難しい。

＜用語の説明＞
※着床遅延（ちゃくしょうちえん）
　受精卵がすぐに子宮内膜に着床せず、胚盤胞の状態でしばらく子宮内に浮遊した後に、着床・発育を始める現象。温・寒帯に分布するクマ類やイタチ類、鰭脚類、カンガルーなどに認められる。着床までの時間によって妊娠期間が変わる。

※※偽妊娠（ぎにんしん）
　偽妊娠は病気ではなく生理現象の一種である。排卵すると、出産にいたらなくても妊娠と同じ経過をたどることが知られている。発情の後、妊娠しなくても、ホルモン値の上昇、動作の不活発、長い休息時間、食欲不振、乳頭の明瞭化、乳房の腫脹、巣作り行動など妊娠した場合と同様の現象が現れる。これを偽妊娠と呼ぶ。出産することがないまま日数が経過し、上記の変化が認められなくなって終息する。


◎ジャイアントパンダの子育て等に関する
　　　　　　　　　　　　一般的傾向について
１．子どもは平均体重144.59±40.59g（母親の体重の千分の１）で、１頭または双子、まれに３つ子が生まれる。双子が生まれる確率は約45％。

２．一般的に、子は母が抱いて育て、胸部の乳房から母乳を飲ませる。

３．繁殖期以外は単独行動をするため、子育ては母のみでおこなう。

４．野生では木の洞や岩穴などで出産・子育てをおこなう。

５．子どもは90～120日で歩くようになるが個体差が大きい。

６．子どもは８～９か月で離乳するが個体差が大きい。

７．子どもは1.5歳～２歳で親離れする。


◎双子が生まれた場合の子育てについて
　ジャイアントパンダは双子を出産することがあるが、母親は自分ではそのうちの１頭しか育てないことが多く、残りの１頭は死亡してしまう。希少動物なので１頭でも多く成育させたい。

　最近の研究で、母親から取り上げて人間が保育した子どもを母親に戻しても、母親はそのまま受け入れることがわかった。そこで近年は、双子を産んだ場合、１頭をいったん人が取り上げて保育器で育て、その間もう１頭は母親に育てさせ、途中で子どもをオリの間から交換し、母親に同時に２頭を育てさせるという方法をとるようになった。

　この方法をおこなうためには、パンダの子育てに人が介在しやすい構造の施設が必要となる。具体的には、オリの間から人がパンダ側に手を入れて子どもを取り上げることができるような構造が必要となる。

＊参考文献：
・『大熊猫　域外保全　理論と実践』（中国で発行された書籍）
・『ジャイアントパンダの飼育──上野動物園における20年の記録』（東京動物園協会発行）

◎関連ページ
・７月３日（火）からシンシンの展示を中止します

・上野動物園のジャイアントパンダ情報サイト
「UENO-PANDA.JP」

◎過去のニュース
・ジャイアントパンダ「シンシン」の近況（３）
　（2012年06月12日）

・ジャイアントパンダ「シンシン」の近況（２）
　（2012年05月29日）

・ジャイアントパンダ「シンシン」の近況（１）
　（2012年05月15日）

・ジャイアントパンダ、見合いと同居と再展示
　（2012年03月27日）

・ジャイアントパンダを同居させました
　（2012年03月26日）

◎関連動画
・ジャイアントパンダ、交尾を確認
　（2012年03月25日、26日撮影）


写真上　：シンシン（６月25日撮影）
　　中上：オリ（外側から）
　　中下：オリ（内側から）
　　下　：保育器

（2012年06月26日）