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「夜の森」でヨタカを展示
 └─上野  2010/02/26

 上野動物園東園の「夜の森」で、オスのヨタカの展示を始めました。ヨタカは宮澤賢治の童話にも登場するなど、名前を聞いたことがあるかもしれません。しかし、夜行性のこの鳥を目の前で見る機会は少ないのではないでしょうか。

 ヨタカは、飛ぶ姿がタカ(鷹)に似ていることからこの名前をつけられたそうで、タカやワシなどのいわゆる「猛禽」とはまったく別のなかまです。日本には夏鳥として本州に飛来し、その後東南アジアへ渡り、冬を越して帰ってきます。

 上野動物園で飼育しているヨタカは、2年前に大けがをしているところを保護され、動物園にやって来た個体です。動物病院で治療を受けましたが、飛ぶことはできず、鳥舎の裏側に置いた小さなケージでしばらく飼われていました。

 その後順調に回復したので、たとえ飛べなくても、夜行性の鳥の姿を「夜の森」で見ていただこうと考え、鳥舎から「夜の森」の裏側飼育スペースに移しました。

 それまで餌のコオロギやミールワームをピンセットで差し出して与えていましたが、それは小さなケージ内の決まった場所に止まっているからからできたので、展示するためには、自分で餌皿などから餌を探して食べるようにしなければなりません。この「餌づけ」にとても苦労しました。

 餌を皿に入れておいても、彼はじっとしたまま食べようともしません。お腹がすいたらさすがに食べるのではと考えましたが、やはり食べず、体重が減るばかりです。結局こちらが根負けし、またしばらくピンセットで与えることに……。最長4日、なにも食べないこともあり、同じことの繰り返しでした。

 野生のヨタカは、大きな口を開けて森の中を飛び回り、飛ぶ昆虫を捕食します。手で餌を与えるときも、顔に向けて餌を動かしていくと、口を開けながら羽を広げ、バランスをとりながら餌に向かって枝の上を走ってきます。

 ヨタカはほかの鳥とはちがって、自分で地面の上の餌を探したりしないので、自分の顔の前に餌が「いる」状態を作らなければならなかったようです。皿の位置や角度を変えて固定してやっても、結局こぼしてしまいます。「ついばむ」という行動もあまりうまくないようです。

 そうしているうちに人に慣れてきたのか、手で餌を差し出すと、手のひらに置いたコオロギや、指でつまんだコオロギを食べるようになりました。そこで、口の高さの横枝に針金を巻き、その先にコオロギを刺して固定できる装置を作り、枝の近くに置いてみると、ピンセットで与えたときのように、羽を広げ、口を開けて餌に向かってきたのです。

 展示はこの装置に餌をセットし、一日に数回入れ替える方法をとることにして、昨年(2009年)末、現在の展示室にやっとデビューすることができました。

 展示室内には枝を組んでありますが、まだじょうずに上がることはできず、一日のほとんどは地面の横枝の上でじっとしています。餌を食べる時間も不定期ですが、今後、ダイナミックな餌の食べ方を多くの方に見ていただき、ヨタカという鳥の力強さを感じていただけるよう工夫を続けたいと考えています。

〔上野動物園東園飼育展示係 中村壮登〕

(2010年02月26日)



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