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エトピリカの鞘
 └─葛西  2009/05/01

 エトピリカには「鞘」(さや)があります。「鞘」といえば、刀をおさめるモノですが、もちろんエトピリカが刀をもっているわけではありません。しかし、短剣にも匹敵する、太くて鋭いくちばしをもっています。繁殖期になると、このくちばしの根元の方に「鞘」ができるのです(写真上)。これを和名で書いたものが見つからないので、私は「鞘角」(さやづの)と呼んでいます。

 鞘角はシカの角に似ています。シカの場合、毎年早春に角が落ちたあと、春のうちにオスの頭にふたたび角が生えてきます。伸びているあいだ、角は柔らかく、ぶよぶよしていて、血管も通っています。この時期の角は「袋角」(ふくろづの)と呼ばれます。その後、袋角はしだいに骨化し、死んだ組織として非常に硬くなり、翌年の早春には根元からはずれて落ちるのです。

 エトピリカの場合、春になるとくちばしを覆う表面組織が角質化し、ふくれてきます。最初は少し柔らかく、傷つくと出血し、傷が大きく残ってしまいます。そして、完全な角色になるころには、爪のように硬い組織に変化します。そして、繁殖活動が終わると、くちばしから外れて抜け落ちます。なお、鞘角は5個のパーツからできています(写真下)。

 エトピリカはオスもメスも、同じ大きさの鞘角を同じ時期につくります。繁殖に関係するシグナルだと思いますが、その働きはよくわかっていません。また、3歳以上になれば、繁殖しなくても鞘角ができます。なお、同じウミスズメ類の鳥類でも、これほど目立つ大きな「飾り物」を毎年つくるのはエトピリカだけです。

 葛西臨海水族園では現在、エトピリカにこの鞘角ができているところです。

写真上:エトピリカの頭部
写真下:抜け落ちた角鞘のパーツ一式。上の三つは上嘴、下側の二つは下嘴にできます。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 福田道雄〕

(2009年05月01日)



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