5月最後の休園日(2007年5月28日)のことです。園内のあちこちで、飼育担当者が集まって、臨時作業を進めています。西園では、ケープペンギンをすべて捕まえ、体内に埋め込まれているマイクロチップを装置で読み取り、同時に足につけたリングをチェックして、個体確認が行なわれています。これは、ペンギン池のペンキ塗りかえにともなう引っ越し準備です。
東園ではプレーリードッグの全頭捕獲が進行中。地中に穴を掘って暮らす動物なので、飼育係は全員スコップを手に、土を掘り続けます。毎年、繁殖シーズンが終わった今ごろ、全頭を捕まえて繁殖個体を調べるのです。また、生まれた個体にマイクロチップを埋め込む作業もおこないます。同時に、外に逃げ出しそうな箇所がないか調べ、処置をします。
西園のヤブツカツクリ展示場では、ヤブツカツクリが作った塚を、飼育担当者が1人で掘り返していました。ヤブツカツクリは、オスが落ち葉などを集め、大きな塚を作る鳥です。メスはこの中に産卵します。
塚の表面から20センチほど掘り進んだとき、汚れひとつない真っ白な卵が、いっぺんに5個あらわれました。おどろいたことに、卵はすべて、尖った方が下になっていました。家庭でニワトリの卵を冷蔵庫に保存するとき、尖った方を下にした方が鮮度を保てるとされています。これと同じことなのでしょうか。
ヤブツカツクリの塚の中では、微生物による発酵熱が生じ、そのおかげで卵が温められるのですが、この塚は枯葉の分量が足りず、温度不足になってしまいます。そのため、卵は取り上げてしまうのです。それに、今いるオスは交尾がうまくできず、結果的に無精卵なので孵化しません。
作業が終わってから、飼育担当者は卵に鼻を近づけて、ひとつひとつ匂いを嗅いでいました。そして、こうつぶやいたのです──「こいつは腐ってる」。上野動物園で一番鼻がきく彼にしかできない芸当です。検卵器さえ不要のものとしてしまう、人間ばなれした感覚に驚きました。1時間ほどしてから、ヤブツカツクリの放飼場に戻ると、塚のそばに、枯葉がたくさん置いてありました。
・東京ズーネットBB、
動画「ヤブツカツクリ」(2006年4月)
〔上野動物園子ども動物園係長 高藤彰〕
(2007年6月8日)