不忍池にいるカワウ。「あー、カラスだー」という声もけっこう聞こえきます……。いま、池の真ん中の島では、この黒い鳥たちにまじって、白っぽい鳥がじっと「座って」います。──じつはモモイロペリカンがひなを抱いているのです。上野動物園でモモイロペリカンが繁殖したのは、71年ぶり。『上野動物園百年史』には、つぎのように書かれています。
「昭和7年(1932年)には、モモイロペリカンが繁殖している。このペリカンは大正14年に購入されてから、毎年のように卵は生んでいたのであるが、この年の7月27日と7月31日に生んだ卵が、30日ほどしてかえり、そのうちの1羽が生育した。これは、その以前にも、以後にも、上野動物園では、たった1回のペリカンの繁殖成功例といえる」
このときの孵化日は1932年8月28日でした。
さて、現在のモモイロペリカンですが、9月16日には卵を確認。卵のチェックなどはせず、そーっと孵化を待っていました。オスとメスで交替しながら、抱卵していたとのこと。ひなを確認したのは、10月18日でした。体は濃い灰色です。不忍池のほとりから島まで、ちょっと距離がありますが、しばらく観察してみてください。
親鳥の体の下に埋もれるようにして、なにやら黒っぽく見えるのがひな。今日(10月31日)も双眼鏡で見ていると、ときどき外に出ようとするひなを、親がくちばしで押し戻しているような動きが見えました。眼のいい人なら、肉眼で観察できるかも(無理?)。
毎日午後3時台には、アメリカビーバー展示場のちかくの島で、モモイロペリカンに餌(アジ)をやっています。ただし、子を抱いた親がすぐ巣を離れることはありません。でも、ちゃんと夫婦で交替しながら、餌を食べに来ていますから、ご心配なく。
餌の時間になる前から、8頭のペリカン(現在、不忍池の中を自由に移動しているのは、ひなを抱いている個体も含めて9頭です)は、飼育係がやってくる島に集まって餌待ち顔です。カワウもいっしょにスタンバっていて、餌取り競争はシレツをきわめます。 意外に先がするどいくちばしと、大きく広がる下くちばしの袋(魚を捕るときに使うだけでなく、広げることで体温調節にも使われます)にも、ご注目ください。
モモイロペリカンを不忍池の島(いま餌やりをしている島)に初めて出したのは、2002年3月18日。それまで東園の旧正門そばで展示していたオス(1999年6月22日来園)とメス(1994年1月11日来園)を移動したのです。4月2日には柵から出して、自由に泳がせるようにしました。
さらに2002年10月15日には8羽を放し、オス5羽、メス5羽となったのですが、2003年8月11日にメス1羽が死亡。その後、9月10日に多摩動物公園から若いオスが2羽来園(2003年4月10日生まれ)。現在、ひなもふくめて計12羽となりました。
多摩から来た2羽は、タンチョウやシジュウカラガンのそばにいます。柵で囲われているのですが、人間に育てられたため、人なつっこいんです。近づくと、向こうから寄ってくるかもしれません(気をつけてくださいね)。 若い個体の体は、茶色っぽい色をしていますが、だんだん薄くなっていきます。この2羽も、いずれ池の中に放す予定です。
・「どうぶつ図鑑」の
モモイロペリカン(鳴き声とビデオもあります!)
写真上:2003年10月23日のモモイロペリカン親子
写真下:1932年に生まれたモモイロペリカン
(2003年10月31日)