2012年5月18日と28日、上野動物園のサル山でくらすニホンザルが出産しました。出産したのは、18日がパンジー(推定7歳)、28日がナノハナ(推定6歳)という個体です。生まれた子は2頭ともメスでした。
パンジーとナノハナを含む20頭のニホンザルは、2009年4月24日青森県下北半島から上野動物園に来園しました。野生由来のため年齢は推定となります。
下北半島の野生ニホンザルは、大抵5〜6歳で初めて出産するようですが、この2頭もおそらく初産だと思われます。
ではなぜ初産だとわかるのでしょうか? 答えはメスの乳首にあります。
ニホンザルのオスは、ほとんど乳首が見えません。メスの場合は少し目立ちますが、この乳首のサイズに子育て経験が影響します。子育て経験のない、つまり授乳経験がないメスの乳首は長さが1センチほどです。しかし、一度授乳を経験したメスの乳首は伸びていて、4センチ近くになります。乳首の状態を観察することで、パンジー、ナノハナも初産なのではないかと推察したわけです。
ニホンザルの育児は、基本的にはたとえ血縁関係にある間柄でも、ほかの個体が手助けをすることはありません。出産直後から母親は1頭で子どもを守り育てなくてはいけないのです。
しかし、群れでの社会生活を営む以上、ほかの個体と関わらないわけにはいきません。ナノハナは、ほかの個体との付き合いも良く、ふだんのようすからもうまく子育てをやっていけそうな印象を受けていましたが、パンジーは、日頃から1頭でいることが多く、順位も低いため、群れの中でうまく子育てができるか心配していました。
出産した日、パンジーはやはり落ち着きがなく、生まれたばかりの子を抱いてほかの個体を避けながら歩きまわっていました。しかし数日後、2歳の子をもつアヤメやタンポポに毛づくろいをしてもらうパンジーの姿が目に付くようになりました。また、ふだん1頭でいることが多いマーガレットなどが、パンジーに近寄ってきています。みな生まれたばかりの赤ちゃんに興味があるからでしょう。
こうしてパンジーは、出産を機にさまざまな個体と社会的な付き合いをできるようになりました。群れの社会生活の中で順調に子育てしてくれることを願っています。
写真上:タンポポに毛づくろいしてもらうパンジー
写真下:子を抱いて歩くパンジー
〔上野動物園東園飼育展示係 青木孝平〕
(2012年06月01日)
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