それは、約1年半前(2008年秋)のこと──。上野動物園の子ども動物園係長が、ヤギを放し飼いにしている「なかよし広場」に大きな丸太を置きました。ヤギは高い場所が好きで、運動能力もすぐれているので、ヤギが丸太を登る姿を来園者にお見せしたいという思いからでした(
以前のニュース)。
ヤギ担当者も同じ思いでした。丸太を登る姿を期待して広場にヤギを放すと──まったく橋には登ろうとせず、同居しているニワトリが登るのみ……。橋に餌を置いても、丸太で作った橋は足場が悪いのか、登りたくても登れないようすです。「こんな大きなニワトリの止まり木を作って……」と何度言われたことでしょう。
それから係長とともに橋への登り口を改造してみたり、号令をかけてわたらせるためのトレーニングしたり、試行錯誤をかさねました。しかし、なかなか成功しません。
そこで昨年(2009年)の秋、最後の策にとりかかろうと考えたところで、係長との意見が食い違いました。担当者は橋に平らな板を取りつけ、足場を安定させたい。係長は、ヤギの運動能力は優れている、野生の力強さを信じているから板はつけたくない。
二人とも頑固なので両者ゆずらず。長い議論を繰り返しました。
そして、「今年(2010年)1月末までにヤギを登らせるから自由にやらせてほしい」という担当者の一言で両者納得(?)し、担当者はさらなる改造に取りかかりました。そして、橋に幅24センチの板を取りつけたところ、子ヤギが登るようになったのです! 初めは餌で招き寄せたのですが、ヤギの足取りは恐る恐るといった感じでした。
そしていつのまにか、ヤギはみずから登るようになったのです。それも、群れの中で、おとなのヤギに弾かれてしまう2頭の子ヤギが……。2頭は最高の居場所を見つけたようで、朝一番は橋の上の特等席で食事をするようになりました。
高さおよそ2メートル50センチ、幅24センチ、長さ2メートル70センチ。細くて長い橋をヤギがわたるまで苦節1年半。子ども動物園自慢のヤギ橋です。ヤギがわたる姿をぜひごらんください。
〔上野動物園子ども動物園 高橋美紀〕
(2010年02月19日)