今年も暑い夏がやってきました。人間にとっても暑い夏。上野動物園にくらす2頭のホッキョクグマにとっては、さらに厳しい季節です。2頭は動物園で生まれた個体なので、北極など、雪や氷の世界でくらしたことはありません。それでもやはり、暑い夏は過ごしにくいようです。
上野動物園のホッキョクグマ展示場は、1927年(昭和2年)に完成した、とても古い施設です。放飼場も広く、プールも備えていて、当時としては画期的なつくりでしたが、欠点は暑さです。日陰がなく、午後になって西日になると直射日光が差し込みます。放飼場の気温が40℃以上になることも珍しくありません。そういうときは、プールに入ってもらうか、がまんしてもらうしかありませんでした。実際、彼らの動きも夏場にはとてもにぶくなります。
そこで一昨年(2007年)、飼育環境改善の試みのひとつとして、夏場の暑さ対策を講じました。それが「ミスト」です。駅や商店街などに、水を細かい霧にして送風機で送り出す「モイスチャーミスト」という装置が設置されていることがありますが、これと同じものをホッキョクグマ展示場に設置しました。
およそ8×20メートルの空間に対して利用可能で、霧と風による相乗効果で気温が3~5℃さがるとうたわれており、実際に測定したところ、使用しない場合に比べて2~3℃の差がありました。
水の使いすぎではと心配しましたが、使用する水は1日8時間くらいの使用で風呂桶1杯にもならないくらいだそうです。また、強力な送風機のおかげで、高いところに設置した装置から霧が下まで届きます。少ない水を非常に細かい霧にして出しているため、晴れていると霧が見えにくいのですが、冷たい霧がちゃんと放飼場まで届きます。
雨や曇の湿度の高い日は霧がよく見え、風に乗ると観覧通路まで伸びてくることもあります。霧と風で涼しいというお客さんの声もたまに聞こえてきます。クマたちも涼しいのか、霧が届く場所に座りこみ、ミストを浴びているようなしぐさもよく見せています。
2頭とも20歳を超え、すでにクマとしては高齢になりました。なるべく快適な環境で夏を乗り切ってもらおうと考えています。
〔上野動物園東園飼育展示係 乙津和歌〕
(2009年08月07日)
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