2009年3月6日、上野動物園のニホンツキノワグマの「ソウ」(オス、4歳)が冬眠から目ざめました。
これまで、上野動物園で冬眠するクマといえば、「クー」(メス、4歳)でした。クーの場合、冬眠用の施設に入れ、室温を下げて冬山のような厳しい寒さを作ります。クマの自然な行動である冬眠を動物園で実現させるこの試みは今回で3回目。冬眠のようすはモニター画面でも見ていただいていました。
さて、室温を人工的に下げることをせず、東京の気温では冬眠しないのでしょうか? この疑問を解くために、ソウに非公開の寝室に入ってもらったのです。
クマ舎には冬眠しないクマもおり、飼育係は毎日作業に入ります。この中でソウが落ち着けるように、寝室の格子には「のぞき穴」をつけたベニヤ板をはりつけました。また、これで人間のすがたが見えませんし、外の光があたらなくなります。また、寝室内にはワラをたくさんしきました。
冬眠前の秋、ソウの体型を観察しながら、冬眠に向けてえさを増やす予定だったのですが、その前にソウの体重はぐんぐん増え、体も丸々としてきたのです。冬眠に向けて、すでに体脂肪をたくわえやすくなっていたのでしょう。
2008年9月下旬に61キログラムだった体重は、12月末には74キログラムに! えさは12月23日から減らし、31日に絶食させました。こうしてソウは、日中はワラを集めて作ったベッドで体を丸めて寝るようになりました。呼吸数は2009年1月1日が毎分6回でしたが、1月7日には毎分3回に減りました。
クーとはちがって、ソウの部屋には24時間観察できる設備を設置していないので詳細はわかりませんが、ソウが冬眠に入ったのは1月初旬と考えられます。
2月下旬になると、ソウは私たちの気配や物音に敏感に反応するようになりました。3月4日、コマツナを与えると茎まできれいに食べ、さらに6日の朝、寝室内に冬眠後初めての糞があったため、これで冬眠が明けたと判断しました。
冬眠中の室温は4.4~16.1℃、平均7.2℃でした。冬眠後の体重は61.2キログラム。冬眠前にくらべると、12.6キログラムの減少でした。
ソウのおかげで東京の冬でもツキノワグマは冬眠するということがわかりました。ソウ、ありがとう!
ソウは2009年3月9日から運動場に出ています。朝は少し眠そうなときもありますが、日中はタロコとじゃれ合って元気に遊んでいます。
〔上野動物園東園飼育展示係 井手桂子〕
・東京ズーネットBBの動画「
ツキノワグマの冬眠展示」
(2009年03月14日)