桜も散り、日増しに新芽が顔を出し、チンパンジーの放飼場も緑にいろどられてきました。いつもこの季節になると、「♪夏も近づく、八十八夜~」、この茶つみの歌が頭に流れてくるんです。
最近、昼過ぎにキーパールームからモニターで見ていると、表側にまったくチンパンジーのすがたが見あたらないことがあります。外に出て確認すると、みんな山の裏側でばらばらに散って、なにかに夢中になっているのでした。
かれらがいた山の裏側には、ピラカンサという植物が植えてあります。ピラカンサには、鋭いとげがあるため、近くを通ったり、上をまたぐときは慎重によけながら移動します。かれらのいつも通るところは、きれいな獣道(と呼んでいいのか?)ができています。
しかしこの日、ピラカンサに群がるかれらは、枝を豪快に折ったり、やや騒がしいことが多かったりするふだんとは、かけ離れていました。ものすごく静かで、とげが刺さらないよう、繊細なタッチで新芽をつまんで食べているのです。ただ、そのすがたがどう見ても茶つみに見えるので、担当者は「茶つみ」と呼んでいます。この季節ですし……。
とはいえ、このペースで植物を食べられると山が丸坊主になってしまうので、園内からさまざまな種類の枝葉を取ってきてあたえます。ペコ(48歳)やチコ(13歳)はネズミモチの樹皮が好きですが、デッキー(29歳)は葉の方が好きで、好みはさまざまです。この時期の葉っぱがいちばんおいしいようで、食べている彼らの表情はじつに満足げです。こちらが「俺も食べてみようかな?」と思えるほど、おいしそうに食べているんです。
新芽をつまんで食べたり、好きな枝葉を選んで食べるすがたには、まるで野生にいるかのような錯覚をおぼえます。ここは東京ですが、アフリカを感じに多摩動物公園に来てみませんか?
〔多摩動物公園北園飼育展示係 木岡真一〕
(2008年05月02日)
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