現在、多摩動物公園・昆虫園本館の水生昆虫ゾーンでは、成虫になるまでの期間限定で、タガメやコガタノゲンゴロウなどの幼虫を展示しています。私は去年(2007年8月)のメールマガジン No.339 で、水生昆虫たちは5月~8月に幼虫が生まれます」と書きました。実際、野生では成虫が冬眠から覚めた夏ごろが本来幼虫の生まれる時期なのですが……。
では、なぜまだ春にもならないこんな時期に幼虫がいるのかというと、じつは、この幼虫たち、本来は去年と同様、夏ごろ生まれるはずだったのですが、あたたかい部屋で一部の種類の成虫を育てていたところ、気温と日照時間の関係で季節を夏とかんちがいし、真冬に産卵した結果、この時期に幼虫が生まれてしまったのです。
幼虫が生まれて何か悪いことでもあるのか?と思われるかもしれません。しかし、冬に生まれるということは大きな問題を抱えているのです──それは、「食べ物がない」こと。
水生昆虫たちの幼虫は、そのほとんどが他の生き物を食べる「肉食」です。しかも、幼虫の体は小さいので、さらに小さい生き物を与えなければなりません。ところが、部屋の外は冬。他の生き物、とくに昆虫は冬眠の真最中なので、なかなか見つかりません……。
昆虫園の幼虫たちはもちろんそんな事情はおかまいなく、毎日毎日元気にたくさん食べてくれるので、毎日のえさ探しには大変苦労していましたが、やっと春の足音が聞こえ始め、外の生き物も活動を始めたのでホッとしています。
さて、写真のいちばん上は、展示しているタガメの幼虫です。生まれたのは新年になったばかりの2008年1月11日。2が月ほど経った今は5令幼虫(終令幼虫)にまで育ち、大きさはもう成虫とほとんど変わりません。生まれてすぐのころは小さなメダカしか食べられませんでしたが、現在は自分と変わらない大きさの金魚などを太い前脚を使って捕まえています。
成虫との大きなちがいは、まず一つ目が「色」。成虫の体色は地味な茶色ですが、幼虫の色は黄色や黄緑色に近い色をしています。周囲の水草などと同じ色になることで、自身を外敵から守っているようです。
ちがいの二つ目が腹部。タガメの幼虫は、よく見ると角度によって腹部が光って見えることがあります。これは、細かい毛に溜め込んだ空気が光っているのです。成虫はこの細毛が背中側にありますが、翅に隠れており、ふだんはなかなか目にすることがありません。こうして空気を溜めておくことで、長い時間水中に潜っていることができるのです。
成虫と同じように、なかなか動きを見せてくれないタガメの幼虫ですが、体が半透明なので、背中側から体の中身が透けて見え、体液や内臓の動きがとても観察しやすい状態です。成虫になるまでの短い期間ですが、なかなか見る機会のないタガメの幼虫たちを、ぜひ多摩動物公園でごらんください。
写真上 金魚を食べるタガメの5令幼虫
写真中 空気で光る腹部
写真下 成虫水槽の前に小さな容器で展示しています
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 渡辺良平〕
(2008年03月21日)
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