多摩動物公園の昆虫園本館2階の標本展示室では、2007年10月5日から11日まで、東京都からすがたを消したチョウ、クロシジミの標本を展示しています。
クロシジミ(学名 Niphanda fusca )は、開張(翅を開いたときの幅)がおよそ3~4センチ、翅の表側は黒褐色ですが、オスには暗紫色の光沢があります。翅の裏側は灰褐色で、黒斑があります。本州、四国、九州、隠岐、対馬、朝鮮半島、中国、シベリアに分布し、東京付近では、夏、平地から丘陵の雑木林のまわりなどで見られました。
日本では全国的に生息地が減少しており、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧I類(絶滅の危機に瀕している種)とされています。東京都では1990年に観察されたのを最後に見られなくなっており、絶滅種とみなされています。
昆虫園では、東久留米市、清瀬市、小金井市、国分寺市などで過去に採集された標本などを展示しています。
クロシジミの成虫は、アブラムシのついているクヌギやコナラなどの小枝や葉に卵を産みつけます。幼虫は最初はアブラムシなどの分泌物を摂食しますが、途中からクロオオアリによって地中の巣に運ばれます。巣の中でクロシジミは、アリから餌をもらうかわりに、幼虫の背面にある蜜腺から分泌される蜜をアリに与えるという変わった生活をします(アリとの共生)。幼虫はアリの巣内で越冬し、翌春、巣口の近くで蛹化し、羽化後に巣の外へ這い出すそうです。
写真は、1958年に東京都小金井市[当時は北多摩郡小金井町]で採集されたクロシジミのメス(裏側)です。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 高橋秀男〕
(2007年10月05日)
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