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サーバルにおける環境エンリッチメントの効果を調査
 └─ 2025/09/26
 みなさんは「環境エンリッチメント」という言葉を知っていますか? 環境エンリッチメント(以下、エンリッチメント)とは、飼育下の動物に対して、それぞれの種にふさわしい行動を引き出せるよう飼育環境を構築し、アニマルウェルフェア(動物福祉)の向上をはかる取り組みのことです。飼育下の動物は野生に比べて行動範囲に限りがあり、行動の種類も少ないとされています。これを少しでも改善し、野生本来の行動を引き出すために動物園ではさまざまなエンリッチメントを取り入れています。

 多摩動物公園のサーバルでも、以前からエンリッチメントがおこなわれてきました。丸太のアスレチック遊具を設置し、立体的な空間を広げることで行動範囲を増やしたり、展示場に馬肉を隠すことでえさを探すという行動を引き出したりしています。ときどきキーパーズトークの中でおこなっている「サーバルジャンプ」もエンリッチメントのひとつです。これはサーバルの狩りの特徴でもある、垂直にジャンプして獲物を捕らえるという野生での行動を引き出しています。

 しかし、放飼中はほとんどの時間を休息してすごすか、同じ場所を行ったり来たりする常同行動をしてすごしていました。そこで、あらたにボールやロープ、麻袋などの遊具を与えるようにしましたが、当初はボールを転がしたり、ロープや麻袋を噛んだりしてよく遊んでいたものの、しばらくすると飽きてきたのかあまり遊ばなくなってしまいました。


サーバルのボール遊び

 そこで、遊ばなくなった原因を調べるためにエンリッチメントの条件を変えて比べてみました。

 3頭のサーバルを対象とし、素材や形の異なる遊具3種を2個ずつ用意し、1個はロープで吊り下げ、もう1個は自由に持ち運べるよう地面に置いて、サーバルがどちらを使用するか、30秒ごとに5分間記録しました。これを1週間連続しておこない、週ごとに遊具を替えました。その後、3種の遊具を毎日ローテーションさせ、それを3週間続けておこない、使用頻度を記録しました。


今回使用した遊具
(左:ゴム製の棒、右上:プラスチック製のボール、右下:ゴム製のボール)


調査のスケジュール

 その結果、3頭中2頭は、調査前の予想どおり毎日遊具を変えることで使用頻度が上がったのですが、1頭は使用頻度が下がってしまいました。さらに、使用頻度が上がった2頭も、吊り下げている遊具に関しては毎日遊具が変わるようになるとまったく遊ばなくなってしまい、その反面、自由に持ち運べる遊具の使用がとても増えました。これは単純に飽きて遊ばなくなるというよりも、遊具の種類や設置方法に対する個体ごとの好みの違いによる影響が大きいのではないかと思われます。

 このようにエンリッチメントの方法について条件を整えて比較することによって、その効果が客観的に得られ、改善方法を模索することができます。今後は調査結果をもとに、遊具の種類を増やしたり、個体ごとに与え方を変えたりするなど、エンリッチメントの計画を立て、サーバルにとってよりよい環境づくりができるよう工夫していきます。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 江口〕

(2025年09月26日)


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