令和7年5月5日に多摩動物公園は67回目の開園記念日を迎えました。
今年も4月下旬から5月上旬の大型連休を中心に、多くの方が園内の緑豊かな自然の中で、家族・友人などと大切な時間をすごし、希少種をはじめとした動物の飼育展示を楽しんでいただく姿は、園を運営するスタッフの励みにもなっています。
さて、昨年はライオンバス運行開始60周年やコアラ来園(国内初)40周年といったイベントが目白押しだったのですが、スタッフから今年のメッセージと言われ、頭を悩ませました。67周年。園の「還暦」は2018年に終わっているし、会社員の再雇用である65年も満了、どう考えてもキリが悪い……。
こんなときに頼りになるのが「多摩動物公園50年史」なのですが、60周年施設は「昆虫園敷地整備」や「アフリカ園無料休憩所完成」で、ピンときません。
では、園の飼育展示の歴史ではどうでしょうか。
20年前の2005年4月に「新オランウータン舎」がお披露目されていました! スタッフの中には、つい最近のように思う人もいて、「これを取り上げるのですか」とも言われたのですが、いろいろと調べると、今年の開園記念日にふさわしい「歴史」が刻まれています。

タワーを登っているオランウータン
そもそもオランウータンの飼育は、開園日から約2か月後の1958年7月19日に推定2歳のメス「ジプシー」の来園から始まります。その後も飼育・繁殖などはこれまで継続しており、50年前の1975年10月は広い運動場のあるオランウータン舎の新設もあり、開園以来取り組んできた、緑豊かで広い敷地を活用した飼育・繁殖・展示の歴史があるのです。
最初の個体の来園時は動物舎が未完成で、夜は獣医室の小さなケージですごし、日中は園内のいろいろなところに出かけて居場所が定まらないために、「ジプシー」と名付けられたことを考えると、その後の施設の充実はまさに歴史的な出来事だと言えます。
野生のオランウータンは高さ数十mの樹木にぶら下がり移動しながら生活することなどから、現在の施設は地上15mの高さにロープを張り約150m先の運動場に移動できる構造で、「スカイウォーク」とも呼ばれています。これは、長らくオランウータンを飼育してきたなかで、飼育下の動物のくらしをより豊かにするための取組みのひとつとなります。建設にあたっては米国のスミソニアン国立動物園を参考にしていますが、緑豊かな第二運動場への移動は画期的であり、その後は国内外の動物園などから施設設計の問い合わせなども受けており、20年経っても色褪せない特色です。
世界動物園水族館協会(WAZA)は、2015年に定めた戦略にもとづき、協会に加盟する施設あるいは地域協会において、飼育下の動物のアニマルウェルフェアを向上していく取組みを推進しています。このことは、希少な野生動物種の繁殖や飼育管理にも役立つ、重要なものであり、多摩動物公園としても、オランウータンだけでなく、さまざまな動物種で100年先を見据えた、希少動物種保全への貢献を進めていくつもりです。

スカイウォークを渡るオランウータンと園長
これからも飼育下の動物がより快適にすごせるような飼育展示をめざし、さらに教育、保全、調査研究を進めるとともに、来園された方々が快適にすごせるように取り組んでまいります。職員一同、多くの方々の来園をお待ちしております。
〔多摩動物公園長 渡部浩文〕
(2025年05月05日)