上野動物園、多摩動物公園、葛西臨海水族園、井の頭自然文化園では、動物園や水族園の生きものをテーマにした研究レポートを毎年募集しています。多様な生きものを飼育、展示している動物園・水族園は生きものを実際に観察し、その不思議を探究する場としてとても適しています。中学生や高校生のみなさんに生きものの観察の楽しさを知って欲しいというねらいではじめた企画ですが、4年目となる今年は790件以上の応募をいただきました。
ご応募いただいた研究レポートのなかから中学生部門3作、高校生部門1作を年間最優秀賞作品に、中学生部門6作を奨励賞に決定しました。
また、本年度よりユニークなテーマのレポートを表する「ユニーク賞」を新設し、中学生部門2作をユニーク賞に決定しましたので、以下のようにお知らせします。
年間最優秀作品 4点(敬称略)
「ホウボウはなぜ歩くのか-遊離軟条の動き方パターン分析と他の生物との比較-」
芦谷朋樹(高校2年生 東京都立新宿山吹高校)
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ホウボウ
【選者コメント】
これまで高校生からの応募は中学生に比べて少なく、最優秀作品に選ばれたことは一度もありませんでした。今回、芦谷さんの作品が高校生として初めての受賞を果たしました。中学生とのレベルの違いを考慮する必要がありましたが、芦谷さんのレポートは、まず書籍のように整ったデザインが目を引きました。もちろん、それだけではなく、ホウボウが遊離軟条を足のように使うことに気づき、水底を前進する動き以外の、曲がる、離陸、着陸、探索では、動きにちがいがあることを論理的に示していました。さらに、さまざまな動物の足の動きを同じ手法で比較し、進化の視点での考察まで行っています。最後のまとめでは、水族園では知ることができない最新の遺伝子レベルの研究を引用し、生物進化に一石を投じる発見の可能性を論じています。関連する研究分野に進み、水族園の展示に貢献できる成果をあげることを期待します。
「カイツブリの足と泳ぎ方の関係」
大田原優衣(中学1年生 東京電機大学中学校)
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カイツブリ
【選者コメント】
大田原さんは、井の頭自然文化園で出会ったカイツブリについて、興味の赴くままに情報を集め、まとめています。まるでネットサーフィンをしているかのような展開ですが、マウス操作や画面タッチで得た知識ではなく、実際に目の前にいる生きたカイツブリを観察し、多くのイラストを紙に描いて記録しています。少なくとも2度は観察に訪れ、文献を参考にしながら自らイラストを描き直している点も個人的に好印象です。レポートの構成やデータ分析にはまだ工夫の余地があります。生きもの観察を楽しむ姿勢を大切にしながら、今後も研究に取り組んでください。井の頭自然文化園を舞台にするのであれば、飼育しているものと井の頭池にすむ野生のものを合わせて観察することがおすすめです。
「ハシビロコウの観察 総集編~ハシビロコウは動かない…?~」
木村実南(中学3年生 昭和女子大学附属昭和中学校)
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ハシビロコウ
【選者コメント】
2022年に続き、木村さんのレポートを2度目の年間最優秀作品に選出しました。1度目に受賞した上野動物園での観察からスタートして、その時の疑問を解決するために別個体を追跡した2年目の千葉市動物公園での観察、そして、「ハシビロコウは動くのか、動かないのか」という視点を超え、さまざまな行動を分類して記録した3年目の観察へと発展させました。また、考察を進める中で生まれた疑問を解決するための追加の観察やインタビューを行い、濃い内容のレポートに仕上げています。日本では比較的なじみがあるハシビロコウは、世界的に見ると動物園で飼われている数は多いと言えません。その背景には、野生のハシビロコウが置かれている状況の厳しさや飼育下繁殖の難しさがあります。木村さんには、今後もハシビロコウという種のサポーターとして活躍していただきたいと思います。
「キリンの飼育環境による行動パターンの違いについて」
渡理陽斗(中学1年生 中央大学附属中学校)
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キリン
【選者コメント】
多摩動物公園(群れ飼育)と上野動物園(少数飼育)における若いキリンの行動を比較したレポートです。このテーマは難しく、もし明確な違いが見つかれば非常に興味深いものです。渡理さんは、それぞれの動物園で開園から閉園まで、キリンを公開している全時間にわたり、1頭の行動を連続して観察・記録しました。中学生になったばかりの彼にとって、大変な挑戦だったと思います。私たちの予想通り、今回のデータは、2頭の行動の違いを飼育環境と結びつけるにはまだ弱いものでしたが、観察を通じて2頭それぞれの個性を発見することができました。この2頭に限らず、個体に注目した観察を続けることで、キリンのくらしへの理解が深まり、最終的には動物園ごとの違いを明らかにできるかもしれません。
奨励賞 6点(敬称略)
「泳げない私が探るカイツブリの潜水の秘密」
岩松明希(中学1年生 都立大泉高等学校附属中学校)
「ニホンリスの行動観察」
島田恵茉(中学1年生 東京女学館中学校)
「〝オリンピック選手のような運動能力″『ツシマテン』の観察」
髙橋愛莉(中学3年生 聖徳学園中学校)
「ハクビシンの生態」
西脇陽花(中学2年生 文林中学校)
「ルリコンゴウインコの器用で不思議な動きの秘密」
長谷川瑞季(中学1年生 調布市立第六中学校)
「利き足(最初に出す足)の観察」
矢野未来(中学1年生 文林中学校)
ユニーク賞 2点(敬称略)
「動物の可愛さとその特徴との関係」
中川莉摘(中学1年生 都立大泉高等学校附属中学校)
「タンチョウヅルはマイペース?」
山本詩絵(中学2年生 富士見丘中学校)
なお、本年も「動物園・水族園レポートチャレンジ」研究レポートを募集しています(
2025年の募集について)。生きものを観察するヒントや、レポートのまとめ方などに関する質問があれば、Eメールでご相談ください。学校の課題でご応募いただく場合もサポートいたします。
問い合わせ先Eメール:edu-center@tzps.or.jp
(2025年03月15日)