生物が生活するうえで、「日当たり」は重要な要素のひとつです。日当たりの良し悪しで生活や行動が大きく影響されます。とくに、日中を屋外ですごすことが多い動物園の動物にとって、日向は寒冷時には寒さ、日陰は熱暑時には暑さをしのぐために大きく役立ちます。しかし、日照は天気や季節、時間によって変化するため、それにともなって動物の行動も変化します。今回は担当者と動物を悩ませる「日当たり」と多摩動物公園のアフリカゾウ「砥夢」(オス)の行動についてお話します。
アフリカゾウ舎は多摩動物公園内でも比較的日当たりのよい場所に立地しています。しかし、ゾウにとってその日当たりのよさが季節によって良かったり悪かったりします。
まず夏季の場合、運動場内で砥夢の体が収まるほどの日陰ができる場所は限られています。また、日陰ができる時間帯は朝と夕方のみで、日中はほとんどありません。炎天下に長時間さらすことは砥夢の健康状態に悪影響をおよぼすことが考えられます。そこで、猛暑をしのげるように、運動場に
泥浴びと水浴びができる場所を作りました。これらができてから砥夢は泥浴び、水浴びを盛んにおこなうようになり、多少暑さをしのげるようになりました。私たち担当者も作った甲斐があったとしみじみ感じています。

砥夢の泥浴び
次に冬季の場合、多摩動物公園の冬は氷点下になることもあり、日が差さない場所は地面が凍ります。問題となるのは、夏とは逆で朝と夕方の日が当たらない時間帯です。天気のよい日中は、砥夢は日向で日光浴をしていることが多いですが、日が差さなくなると一気に体感温度が下がります。
そうすると砥夢はタイヤに頭を押しつける、フンを蹴散らすといったイライラしているときに見せる行動をとります。そのため、雨や雪などの悪天候や気温がとくに低い日には
運動場と室内を出入り自由にして、少しでも寒さをしのげるようにしました。室内はヒーターをつけているので平均すると18℃前後あります。室内外出入り自由にすると砥夢は室内ですごすことが多いです。

日光浴をする砥夢
このように「日当たり」だけでもさまざまな課題が発生し、その課題に担当者は対応しています。いずれの場合も「動物の健康状態を守る」という目的があります。それを実現するためには、日々変化する環境のなかで動物がどのように行動するかを観察し、可能な範囲でくふうし対応することが必要となります。動物を見る際に、展示場の中にあるものから担当者のくふうの一端でも感じ取ってもらえると幸いです。
〔多摩動物公園北園飼育展示係 三松〕
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