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昆虫たちの冬、それぞれのすごし方[1]
 └─ 2025/01/03
 12月の初旬までは聞こえていたコオロギやカネタタキ、アオマツムシの鳴き声もすっかり消え、東京にも冬の季節が到来しました。

 春から秋を賑わせていた、チョウやトンボ、バッタにカマキリといった目立つ昆虫を見かけなくなり、ふだんの暮らしで虫の存在を感じることは少なくなりがちです。しかし、冬を静かにすごしながら春を待つものや、変わらず活動を続けるもの、冬だけ出現するものなど、周囲を探してみると、意外に多くの虫たちに出会うことができます。

 多摩動物公園の昆虫園の職員数人で「昆虫園の周りにいる冬の虫」を探してみましたので、何回かに分けて紹介します。まずは昆虫園前の案内看板です。


とんぼ橋前の案内看板

 園内各所にある何の変哲もない看板ですが、横の隙間を覗いてみると、テントウムシのなかま「ナミテントウ」が集まっていました。


看板の隙間に集まるナミテントウ

 ナミテントウは成虫で冬を越す昆虫ですが、この看板の隙間は世代を超えて好まれる空間らしく、毎年12月の後半ごろになると徐々に成虫が集まってきて、集団で春まですごしているようすが見られます。昆虫園周辺にはあと数個案内看板がありますが、どれも好みの隙間ではないらしく、ここ以外では集まっているすがたを見たことがありません。ナミテントウはまるで別種と思うくらい体色のバリエーションが豊富な昆虫ですが、毎年必ずさまざまな色合いのナミテントウが混ざっていて感心します。

 つぎは昆虫生態園の入口にある池です。立ち入りが制限されている場所なので来園者の方が覗き込むのは難しい場所ですが、数年前に水の中の土砂と植物の整理を実施して、水辺の面積の広い池に生まれ変わりました。以前は入り組んだ水辺を好む生きもののすみかとなっていましたが、土や植物が減り開放的な池となってからは、広さや深さのある水辺を求める虫たちが多くくらすようになっています。


昆虫生態園入口脇の池

 現在の池で一年をとおして目立っているのが「コマツモムシ」です。昆虫園の池では長らく姿を見かけていなかった種ですが、清掃後にいつの間にか訪れて、今では圧倒的多数を占めるようになりました。


近年急増中のコマツモムシ

 春から秋までは毎日ふわふわと器用に背泳ぎで水中をただよっているようすを見かけていたコマツモムシでしたが、12月末の時点では池の隅の水底に多数が集まってすごしていました。ほとんど動かずにじっとしていましたが、水中で呼吸できるわけではないので、数分間眺めていると、ときどき呼吸のために水面に浮かび上がってくる個体も見かけることができました。

 真冬になると水中から地中に移動して冬越しする、といわれていますが、多摩のコマツモムシたちはまだまだ水中でくらすつもりのようです。


水底に集まってすごすコマツモムシ

 冬は体の大きなものや色彩の派手な昆虫たちを見かけなくなる、人間から見るとやや静かで地味な印象の季節ではありますが、ほとんどの昆虫の動きがゆっくりとしているため、じっくり観察しやすいことがほかの季節との大きな違いであり、楽しい点でもあります。

 寒い季節は園内を歩くのも大変ですが、ぜひ多摩動物公園にお越しの際は、園路の脇の看板などのものの隙間や植物、地面などにも注目してみると、昆虫たちの冬のくらしを見つけることができるかもしれません。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 渡辺〕

(2025年01月03日)


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