2024年10月15日、今年生まれのトキの幼鳥7羽を
佐渡トキ保護センターに送り出しました(
くわしくはこちら)。
昨年10月に新しい2ペアを迎え、
合計3ペアで2024年の繁殖期を迎えることをお伝えしました。そのときには、新しいペアがうまく繁殖できるか心配だと書きましたが、今回はこの3つのペアでの2024年の繁殖のようすをお伝えします。
2024年3月、いちばん早く美しい巣を完成させたのは、初めて繁殖期を迎える若いペアでした。このペアは順調に4つの卵を産み、自力で孵化をさせました。
多摩が初めてトキの自然孵化に成功したのは、飼育開始から15年目の2022年。この若いペアはそれをいきなり達成したのです。

自然育雛のひな3羽と両親
これには、この2羽の生い立ちが関わっていたのかもしれません。というのも、このペアは2羽とも親に育てられた個体(自然育雛)でした。親元で孵化、育成した個体の野生での生存率が高いことは報告しました(
「どうぶつと動物園」2023年秋号掲載)が、それを示唆する結果といえるかもしれません。ただ、4羽を育てるには巣が小さかったため、巣から落ちてしまった1羽は下記の中堅のペアに育ててもらいました。
少し遅れて、昨年も自然繁殖に成功している中堅のペアが産卵しました。しかし、今年は近くでおこなわれていた工事の影響もあってか落ち着きがなく、せっかく産んだ卵をいじりすぎて割ったり落下させてしまうことが多く、育成したひなは1羽のみでした。
最後に産卵をしたのは、昨年の来園当初から相性に不安のあったペアです。このペアは3月になってもなかなか巣を作らず、飼育係をやきもきさせました。途中で飼育係が巣の材料を入れるなどして手伝った結果、ようやく産卵しました。しかし、卵を抱くことが不安定だったり、ひなを守ることがうまくなかったりしたため、飼育係が一時的に巣から卵やひなを取り出して保温したりえさを与えるなどの補助をし、最終的には親に託してようやく2羽のひなを育て上げることができました。
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えさを与える | 夜間は親が抱いてくれないので保育器ですごす |
こうして、7月には7羽の幼鳥が巣立ちを迎えました。当初の予想と違い、若いペアにあまり手がかからなかったり、中堅のペアがもうひとつだったりと飼育係はいっときも目が離せない一喜一憂の繁殖期でした。しかし、3ペアがそれぞれひなを巣立たせることができたことで、来年に向けてしっかり経験を積んでくれたと思います。
親に育てられたひなたちが増え、新たな世代を担っていくことで、トキの野生復帰がますます進んでいくことになるでしょう。トキたちだけでなく、われわれ飼育係も経験を積むことで、トキの飼育下繁殖にうまく対処できるようになっていきます。
これで、多摩動物公園からは17年連続、合計98羽のトキを佐渡トキ保護センターへ送り出すことができました。そのうちの76羽はすでに佐渡の空に放鳥されています。今回の7羽も今後放鳥される候補になります。放鳥計画を策定する環境省は今後本州での放鳥も検討しています。
当園生まれのトキがみなさんの街を飛ぶ日が来るかもしれません。そんなことを夢見ながら、来年に向けての準備がまた始まります。

18日齢のひな。青い目印が付けられている
〔野生生物保全センター保全係 木崎〕
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