今年の3月にメスの「アコ」が死亡したことにより、現在多摩動物公園で飼育しているアフリカゾウはオスの「
砥夢」1頭だけになってしまいました。今回は、その後の砥夢のくらしについてお話しします。
砥夢は今年で13歳。ゾウのオスは群れから離れて1頭でくらす期間もあるためか、メスに比べやや大雑把な性格をしているように感じます。また、砥夢自身の性格として、人間への依存が強いようです。要するに砥夢は人間が大好きで、1頭になってからはお客さんに背を向けて、ひたすら飼育係に「かまってアピール」を続けることが多くなってしまいました。
「かまってアピール」は柵を大きな音を立てて揺すったり、フンを投げたり、牙を壁に擦り付けたりして飼育係の興味を引こうとする行動で、砥夢の心身の健康によくありません。
では、どうしたらそれらの行動をやめさせられるか、担当職員全員で考えました。まずは飼育係との接点を極力減らしていくことにしました。これだけをおこなうと、砥夢もなぜ飼育係が来なくなったのかわからずただ騒ぐだけになってしまいます。そこで、砥夢が自ら考えて動き、その結果、えさを発見して食べられるなどのいいことが起こるように準備をしておきます。
具体的には、運動場内を広く探索する行動を促すため、砥夢がふだんあまり行かない場所にもえさを設置しました。いきなり慣れない場所にえさを置いても取りには行かないので、少しずつ置く場所を変えて、まずはプール周り1周をめざしてみました。
砥夢は初めは警戒し、やや離れた場所から鼻を伸ばしてえさを拾っていました。ゾウはその体の大きさゆえか、見えない場所・慣れない場所では、足元のチェックをとても入念におこないます。しかし数日後には、先にお話ししたオスの性格のためか、プール周りをほぼ1周するようになっていました。「ほぼ」といったのは、プールの先端にある排水溝は、どうしても越えられないためです。
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まだ警戒して鼻だけ伸ばしてえさを食べているところ | プールを1周。……せずにここからはバックで戻る |
運動場を広く探索するようになってきたので、次は遊具を増やしてみる予定です。より多くの方法で、自分で考えて探す→その結果えさが手に入る、という経験を多くしてもらうためです。こうした取組みにより、徐々に問題行動も減ってきています。
残念ながら、文字数の都合により、今回のお話はここまでになってしまいましたが、現在も砥夢は新しいことに挑戦中です。この続きはまたの機会に……。

プール周りが落ち着いたら、中にも挑戦
〔多摩動物公園北園飼育展示係 野本〕
(2022年09月21日)