動物たちのあいだでは高原性鳥インフルエンザが、人間のあいだでは新型コロナウイルスが流行していますが、樹木にも流行病があります。現在、多摩動物公園や近隣地域では「ナラ枯れ」と呼ばれる伝染病が流行しています。
「ナラ枯れ」とは主にブナ科の樹種(コナラ、クヌギなど)によく見られる伝染病で、6月~9月ごろ、大量のカシノナガキクイムシという体長5mmほどの小さな昆虫がナラ菌を持ち込むことによって引き起こされます。ナラ菌に感染した細胞は枯死するため、通水障害を起こし、進行が速い樹木は1週間ほどで枯れてしまいます。
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多摩動物公園内のナラ枯れのようす | ナラ枯れ |
多摩動物公園では2017年に初めて確認され、特に今年はその被害が急激に進み、現在500本以上のコナラ・クヌギが園内で枯れています。通常、自然に枯れた樹木はすぐに倒れることはありませんが、ナラ枯れにより枯れた木は異なります。個体差はありますが、枯れた木は数年のあいだに太い枝が落ち、幹折れ・倒木する可能性があります。
動物園でこれらの被害が起きると、来園者や飼育動物に直接被害が出るだけでなく、飼育施設やライフライン設備が破損すると動物を飼育できなくなり、ネットが破れたり放飼場に木が倒れた場合は飼育動物が脱走する可能性があります。
多摩動物公園では、このような問題が起こらないように、ナラ枯れによる枯損木の伐採を順次進めています。伐採する際は、飼育動物への影響を少なくするため、においが発生する薬剤によるくん蒸処理はおこなわず、伐採した木は園外に持ち出して破砕処理したり、繁殖期を避けて伐採するなど工夫しています。
また、健全木の予防保全にも取り組んでいます。殺菌剤を樹幹注入することで、ナラ菌やカシナガのえさとなる酵母などを殺菌し、木が枯死したり、カシナガが繁殖したりすることを予防しています。
園内の樹木は飼育動物にとって夏場に日陰をつくってくれる存在で、展示としては背景を構成する役割を担っています。今後は伐採するだけでなく、生えてきた実生を保護して育てる取組みにも力を注いでいく予定です。
なお、ナラ枯れの影響により
七生公園の利用を制限しますので、ご了承ください。
ナラ枯れ被害木の見分け方
ナラ枯れにより枯れた樹木には特徴があり、①葉が茶色く委縮していること、②冬でも茶色い葉がついていること(1年目のみ)、③幹に穿入痕があること、④根元にフラス(木くず)が堆積していることなどの特徴があります。
動物園の動物たちは獣医師が病気にかかっているかどうか診断しますが、樹木も樹木医や樹木点検員が病気にかかっているかどうか診断したり点検したりします。
動物たちと同じで、樹木についても病気かどうか調べるのにもっとも有効な手段は観察です。樹形(樹木の形)や樹勢(葉の密度や大きさなど)などを基準に、状態がよいか悪いか判断します。特に、枝や幹にキノコがたくさんついている樹木や、枝や幹が白くなっている樹木などは、弱っている証拠です。ナラ枯れによる枯損木に限らず、このような樹木には特に注意してください。
(2021年12月28日)