健康管理は、生き物にとって大切です。
若いときは免疫力が高くても、歳を重ねるごとに低下していきます。人間であれば、健康診断を受けたり、具合が悪くなったら病院に行ったりすることができますが、飼育されている動物はそうはいかず、我々飼育係が日々の観察によって体調不良を発見しなくてはなりません。弱みを隠すことが多い野生動物ですが、時には動物から協力してもらい、健康をチェックする方法もあります。それが健康管理のトレーニングです。
多摩動物公園で飼育しているボルネオオランウータンの「キュー」(オス)は、今年推定52歳になる高齢の個体で、国内では最高齢のオスになります。麻酔を使わなくても詳しく身体をチェックできるよう、健康管理のためのトレーニングをしてきましたので、簡単にご紹介したいと思います。
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お客さんが好きで、よく観察しています | キューはハンモックに収まるのが好きです |
トレーニング導入のきっかけ
キューがリラックスしているときには、飼育係が口の中を見たり、爪切りなどはできました。しかし、気分によってできないときがあったり、人によってやり方が違ったりしていた問題がありました。
トレーニングをすることでこちらの指示から動いてもらうことにより、キューにとっても何がしてほしいかわかりやすくなり、やり方を統一することで飼育担当者が変わっても持続的に健康管理ができるようにすることが重要と考えました。

キューは昔から歯周病を患っています
トレーニングの初期ステップ
キューには、何か行動したらご褒美がもらえることを理解してもらうことから進めました。これがわかれば、「キューがしてくれた行動が正解だよ」と伝えることができます。
ご褒美の内容は、先行してトレーニングを始めている他園の情報も参考にし、たまごボーロと薄めたはちみつ水を使用しています。両方とも甘く、口に残りにくいため、トレーニングがスムーズに進みます。幸いキューは賢く、行動をしたらご褒美がもらえるとすぐに理解しました。それ以降は指示を出して、望む行動をしてくれたらご褒美を与え、褒めて伸ばしていきました。
現在のキューの成果
日常の飼育業務のあいだをぬい、約1年半かけて少しずつ取り組んできました。
おおまかなくくりにはなりますが、キューは爪切りや口の中のチェックと歯磨き、指定した場所への移動、鼻水の採取などができるようになりました。また、新たに採血をするために腕を入れる筒へのトレーニングも進めています。採血の筒へはすんなりと腕を入れてくれたので、細かく段階を踏んで、いずれは採血ができたらと思っています。
ふだんのトレーニングのようすを短くし、動画にまとめてみましたので、ぜひご覧ください。キューの健康管理のトレーニングの進捗について、またご紹介できたらと思います。
【動画】キューの健康管理トレーニング
(音声があります)
〔多摩動物公園南園飼育展示係 野村〕
(2021年07月02日)