先月、多摩動物公園昆虫園でおこなわれているクロカタゾウムシの繁殖についてお伝えしました(記事「
秋はドングリ集めに大忙し──昆虫園の極秘プロジェクト」)。その極秘プロジェクトの経過をご報告します。
前回のお話は、クロカタゾウムシの繁殖のために園内のドングリを集めて繁殖用ケースを用意するところまででした。
孵化した幼虫はドングリの中身を食べて成長し、十分に育つとドングリから脱出して土にもぐり、蛹になります。このとき幼虫は、蛹になるための部屋を土の中につくります。
前回お伝えしたとおり、メス成虫はドングリの割れ目に卵を産み付け、卵から孵化した幼虫はドングリに潜り込みます。そこで、繁殖用ケースを用意して2週間ほど経った後、幼虫がドングリに潜り込むタイミングを見はからって、腐葉土を敷いた別のケースにドングリを移しました。こうしておいて、後は成虫が羽化してくるのをただひたすら待ちました。
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写真1:ドングリから出てきた幼虫 | 写真2:蛹 |
羽化用ケースを用意してしばらくすると、腐葉土の中でうごめく白い影を見つけました。ドングリから脱出してきた幼虫です(写真1)。幼虫は蛹になる場所を探しながら動き回り、やがて小さな部屋を作ります。蛹になるころには、ほとんどの個体は腐葉土の中に潜って姿が見えなくなってしまいます。中を覗いてみたくなりますが、ぐっと我慢。無事に育っているか、毎日不安や好奇心と戦いながら、乾燥を防ぐための霧吹きだけしてそっとしておきます(写真2)。

羽化したばかりの成虫
ドングリを準備してからおよそ80日後、待望の成虫が羽化しました。クロカタゾウムシはその名の通り黒くて硬いゾウムシですが、羽化したばかりの成虫はまだ前ばねが茶色くやわらかい状態です(写真3)。指で強くおすとつぶれてしまうため、やさしくそっと飼育ケースに移します。
現在も羽化は続いています。次の秋にはまたドングリを拾って繁殖に取り組むことができそうです。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 古川〕
(2021年01月30日)