多摩動物公園の昆虫園に集められたクヌギのドングリ。そして不自然に割られた殻……これは一体なんでしょう?
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クヌギのドングリ | 殻が割られたドングリ |
実りの秋を迎えた多摩動物公園内には、さまざまなドングリが落ちています。飼育係はこれらのドングリを担当動物に与えることがありますが、昆虫園でも利用しています。昆虫生態園入口の「南西諸島のいきもの」コーナーに展示されているクロカタゾウムシはドングリで幼虫を育てることができるのです。
でも、ただドングリをケースに放り込んでおけばよいわけではありません。そこにはいくつかのポイントがあります。

クロカタゾウムシの成虫

その①ドングリはクヌギ!
園内で拾うことができるドングリの中でも、クヌギが幼虫のえさとして適しています。決め手はその大きさ。小さいドングリだとえさの量が足りず、体が小さな成虫になってしまったり、途中で死んでしまったりすることがあります。新たなえさを求めてドングリの外へ出てきた幼虫を別のドングリに移し替えることもできますが、これも大変な作業です。

その②殻を割る!
幼虫はドングリの中身を食べて育ちますが、孵化したばかりの幼虫がかたい殻を突破して中に入れるわけではありません。そこで飼育係はドングリをひとつひとつ殻を割り、飼育ケースに入れていきます。するとメス成虫はドングリの割れ目に卵を産み付け、孵化した幼虫はそこから中に潜り込みます。

ドングリから出てきたクロカタゾウムシの幼虫

その③乾燥は大敵!
クロカタゾウムシの幼虫や蛹は乾燥に弱く、成長の途中で死んでしまうこともあります。ケースには腐葉土などを敷き、きりふき等で水分を与えて湿度を維持します。

その④他のゾウムシに負けない!
園内で拾ったドングリは、野生のゾウムシが先に卵を産み付けていることがあります。なるべくきれいなドングリを拾うよう心がけますが、気づけば違うゾウムシをたくさん育てていることもしばしば。これらのゾウムシの成長も見届けながら、辛抱強くクロカタゾウムシの繁殖に励みます。
さて、昆虫園のドングリの謎は解けたでしょうか。クロカタゾウムシを繁殖させるために、飼育係はさまざまな工夫を凝らしています。残念ながらこれらの作業はバックヤードでおこなっているためご覧いただけませんが、こうした裏事情を思い出しながら展示を見ていただけたらと思います。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 古川紗織〕
(2020年12月04日)