2016年3月8日、多摩動物公園のチンパンジー舎で起きた珍事(チン事?)をご紹介します。
チンパンジー舎の運動場脇には「キッズルーム」という小部屋があり、狭い入口を通り抜けられる体の小さいチンパンジーだけが自由に出入りできます。これまで何頭ものチンパンジーが成長とともにキッズルームを卒業していきましたが、「ボンボン」(10歳、オス)だけはしぶとくこの部屋を使い続け、使用最長記録を更新してきました。
しかし、彼はすでにおとなたちに負けないくらいの体格に育ち、体重は50キロを超えています。ここ1か月ほどはキッズルームに入る姿が見られなくなり、ようやく卒業したかと思っていました。

キッズルームから出られないボンボン
ところが、3月8日のキーパーズトーク中、ボンボンがまたもやキッズルームに入ったのです。まだ子どもでいるつもりか……となかば呆れて見ていたのですが、少しようすがおかしいことに気付きました。部屋の中から両手や頭を出入口に突っ込んでは戻し、後ろ向きになって足を突っ込んでは戻し、という行動を繰り返しているのです。どうやらむりやり入ることはできたものの、出ることができなくなってしまったようです。
そのときの動画を撮影しました。
【動画:キッズルームから出ようと悩むチンパンジー「ボンボン」】
母親の「チェリー」(26歳)も息子の異変に気づき、何度もキッズルームを覗きに来ては入口から手を伸ばしてボンボンを呼びます。当のボンボン本人も試行錯誤しながら出ようとしていましたが、徐々に混乱してきたのか、キッズルームにある丸太のおもちゃを出入口に突っ込んでふさぐという謎の行動を見せました。

なぜか出口に丸太を詰めるボンボン
しかし、チェリーがシラカシの枝を食べているのを見たとたん、「オレにもくれーーー!」と必死で訴え始め、ちゃっかり枝の一部をもらっていました。さっきまでの焦りや不安はどこへやら……食いしん坊のボンボンらしくてつい笑ってしまいました。いやいや、もしかしたら枝を食べて現実逃避をしたかったのかもしれません。
──ボンボンはその後どうなったの?と心配してくださったみなさん、安心してください! 無事に出られましたよ! キッズルームにある職員用の扉から運動場に出て、一件落着です。結局2時間半ほど閉じ込められていたボンボンでしたが、とくに落ち込んだようすもなく、いつもどおり、夕食をもりもり食べていました。
以前から職員のあいだで今回のような珍事が起きる可能性を冗談のように話していたため、現実になって驚かされたものの、焦らず対処できました。この一件以来、ボンボンがキッズルームに入る素振りは見られません。これを機に、彼には“キッズ”からおとなへの一歩を踏み出してもらいたいと思います。
〔多摩動物公園北園飼育展示係 中島麻衣〕
(2016年03月25日)