みなさんの中には、2014年に受験を控え、初詣で合格祈願をした方もいらっしゃるかと思います。そんな方にとってはふさわしくない話題ですが、毎年必ずこの時期に「落ちる」ものがあります。それはシフゾウの角です。
シフゾウはシカのなかまでオスだけに角があります。その角は、繁殖期の終わる12月下旬から1月上旬にかけて落ち、夏の繁殖期に向けまた新しく生えてきます。シフゾウの担当になってまだ1年目の私にとって、立派に生えている角がどう落ちるのか楽しみにしていました。
多摩動物公園にいるオスの「アオバ」は、年が明けたころから角の頭と接している付け根部分に隙間ができ始め、そろそろ落ちるころかと注意して見ていました。2014年1月6日の朝にシフゾウのようすを見に行くと、アオバが右側の角のない状態で座って休んでいました。片方の角だけという非常に不安定な状態のはずですが、気にするでもなく休んでいるアオバを見て少し拍子抜けしました。しかし餌を食べるときだけはバランスが悪いのか、頭を少し傾けて食べているのが印象的でした。
これまでの記録によると、片方の角が落ちると残りの角は翌日までに落ちることが多かったようです。ぜひとも落ちる瞬間を目撃したいと考えていたため、その日はいつもよりこまめにアオバを観察しました。
夕方、いつものようにシフゾウたちを部屋に戻していると、「ガン!」という鈍い音とともにアオバが急に走り出しました。突然のことで何が起きたか最初は分かりませんでしたが、残った角がフェンスにぶつかった瞬間に取れてしまったのだと理解できました。念願の瞬間を目撃し驚く私をよそに、すぐに我に返ったアオバは、何事もなかったかのようにまっすぐ部屋に帰り餌を食べ始めました。
あっけなく取れてしまった角ですが、2本あわせて約3キロの重さがあり、持ってみるとかなり重く感じます。シフゾウの運動場前にアオバの父親のものだった実物の角を展示しているので、みなさんもぜひ手にとって重さを感じてみてください。
現在アオバは角が落ちてから1週間ほど経ち、早くも次の角が成長してきました。角は皮膚で覆われた「袋角」と呼ばれる状態で成長しますが、5月ころまでには今年と同じくらいの大きさに成長すると思います。日々成長を続けるアオバの角をぜひ見に来てください。
写真上:片方の角が落ちた「アオバ」
写真中:両方の角が落ちている
写真下:落ちた「アオバ」の角
〔多摩動物公園南園飼育展示係 伊藤達也〕
(2014年01月24日)
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