人は二十歳を過ぎれば大人といわれます。しかし二十歳の誕生日を境に、心や体が急に大人に変わるわけではありません。さまざまな経験を通して成長し、大人と呼ばれるようになるのではないでしょうか。
さて、多摩動物公園昆虫園のアカアシホソバッタの場合は、そんな面倒くさいことを考える必要はありません。現在、幼虫と成虫の両方を期間限定で展示中ですが、子ども(幼虫)か大人(成虫)か、体を見れば一目瞭然です。
幼虫の体は黄緑色で、胸にオレンジ色の小さなワンポイントが光るフレッシュなスタイル。一方成虫は、茶色を基調とした大人の雰囲気漂う装いです。また名前のとおり、後脚の一部が赤く染まります(成虫には翅があるという違いもあります)。飼育ケースでは現在、幼虫が成虫へと脱皮(羽化)しており、同じ種類とは思えない黄緑色と茶色のバッタが混在しています。
黄緑色から茶色への変化はいつ、どのように起こるのでしょう? 羽化の前後に起こることは予想していましたが、なかなか変化途中のバッタを見ることができずにいました。
そんなある日、飼育ケースをのぞくと、羽化を終えたばかりで、柔らかそうな翅を広げてのばしているバッタを発見。幼虫時代と同じ黄緑色で、胸にはオレンジ色のワンポイントもあります。どうやらこれから体の色が変わっていくようです。このまま観察を続け、大人へと変わりゆくバッタを見届けることにしました。
広げていた翅は観察開始から約20分後には閉じ、2時間後経つと、体色や模様は幼虫と成虫の中間のようになりました。その後、徐々に茶色が濃くなり、4時間後にはほぼ成虫の体色となりました。
孵化してから1年近く生きるこのバッタにとって、子どもとも大人ともいえない時はあっという間に過ぎ去りました。その後、3時間経っても動き出すことはなく、その日の観察を終えました。
翌朝見ると、羽化した場所からはすでにいなくなっています。体の色を変えるという成人式を終え、今日から大人としての新生活が始まったようです。
写真上:アカアシホソバッタ幼虫(黄緑色)と成虫(茶色)
写真下:左から羽化直後、2時間後、4時間後
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係2班〕
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