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ムフロン「フェブ」の出産
 └─2012/04/06

 2012年3月13日、多摩動物公園でムフロンの「フェブ」がオスの赤ちゃんを出産し、初めて母親になりました。しかし、母親らしい行動が見られたのは出産後2日目のことでした。

 フェブは2009年6月生まれの若く、そしてのんびりした個体です。ムフロンのメスは角がなく、個体を見分けるのが難しいのですが、子どもっぽさが残るフェブは、雰囲気で分かるほど、「ポー」としているのが特徴的です。

 そんなフェブのお腹が目立ち始めたのは3月上旬。徐々に大きくなり、12日、群れから分けてワラを敷いた寝室に移動しました。群れから離れたフェブはうろうろと歩きまわり、一日中落ち着かないようすでした。

 翌13日、朝一番で寝室を覗きにいくと、そこには小さなムフロンが! すでに毛が乾きフェブに寄り添っています。

 一方フェブは、「ポー」としたのんびりのフェブから力が抜けたような「ボー」としたフェブに変わっていました。餌をまったく食べず俊敏さもありません。出産で疲れたのだろうとようすを見ることにしましたが、その日一日はただボーとして、結局餌を食べることはありませんでした。

 次の日になってもようすは変わらず、私が近寄っても、体重測定のため子を連れ出してもボーとしたままです。子が元気に走り回っても、立ちつくし、目だけが子を追っています。

 しかし、子が歩いて行った方向で大きな音がすると、フェブはあわてて子のもとに飛んでいきました。よしよし、と思ったのもつかの間、子のもとに来たフェブは「はて?何をしに来たんだっけ?」といったようすで、子の前で呆然としています。

 3日目、日光浴をさせようと親子を外に出してみました。フェンス越しに、メスの群れをみつけたフェブは、ここ2日間にはみられなかった元気が一気にわき出たように興奮してしまい、子が危険になったためすぐに寝室に戻しました。それがきっかけなのか、寝室に戻したあとからフェブは子に執着を示すようになり、子を一時取り上げると鼻を鳴らしながら追いかけ、自ら子のそばにいることが多くなりました。群れから離れた寂しさと初めての母性との間で戸惑っていたのかもしれません。

 一方子は、生まれたその日からボーとしているフェブにかまうことなく、寝室をわがもの顔で走り回り、当たり前のようにフェブに甘えて過ごしてきました。子がフェブを母親へとリードしていっているようにも見えました。

 3月26日、メスの群れにフェブ親子をデビューさせました。メスたちは親子を追いかけたり頭突きをしたりと攻撃的でしたが、フェブは懸命に子を守っていました。頭突き合いを繰り返すこと2時間、ようやく群れは落ち着き、フェブ親子は群れの仲間として受け入れられました。

 フェブの子は「テト」と名付けました。最近のテトは、草を1本ずつするめをかじるようにゆっくりと食べています。日々成長していくフェブ親子にぜひ会いにきてください。

写真上:フェブとテト(出産当日)
写真中:フェブに甘えるテト
写真下:青草を食べるテト

〔多摩動物公園南園飼育展示係 友岡梨恵〕

(2012年04月06日)



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