「日本にすんでいる小さな哺乳類といえば?」──そんな問いかけに、みなさんはどんな名前を挙げるでしょう?
静岡県富士宮市で牧場を経営するMさんは「コウベモグラ」と答えます。身近な動物ですが、Mさんにとっては採草地や芝地にトンネルを掘って荒らす、にっくき相手かもしれません。モグラにしてみれば、悪気はないのですが。
新興開発地域の団地に住むIさんは「ヒナコウモリ」と言います。長期の海外旅行に出かけるので、ふだん使っていない雨戸を閉めようとしたら、飛び出してきたのです。動物園に保護を依頼したIさんは、動物園職員からヒナコウモリという種名を教えてもらったのでした。
東京都西部の山あいに住むCさんは、とっても小さな「ヤマネ」たちのことを思い出しました。切りたおした木のうろの中をのぞくと、樹皮を細かく裂いて詰め込んだヤマネの巣があり、まだ目の開かない5頭の子がいたのです。牛乳を与えると飲みましたが、飼育は公共の施設にゆだねることにしました。イギリスの資料には、ガーデニングなどであやまってヤマネの巣を壊してしまった場合、母親が戻ってくるかもしれないので1時間は周辺を観察し、戻ってこない場合は孤児たちを保護してミルクを与え、森に帰すまでの方法を書いたものがありました。
動物園に勤めるEは、各地方自治体から捕獲・使用許可を得て、林縁部や牧草地、農場に流れる小さな沢を取り巻く湿地に箱型のトラップをしかけ、捕まえたアカネズミ、ヒメネズミ、ハタネズミ、カヤネズミを飼育しています。彼らのすむ夜の世界への入口は、落ち葉のすき間からのぞく直径30ミリ程度の土や草のトンネルだったりします。動物園では、彼らがくらす世界をみなさんにご覧いただこうと展示に工夫をこらしています。巣穴の外と中、二つの反転した世界で生きる小さなネズミやモグラたち。動いていたり寝ていたり、そのくらしぶりをそっと観察してください。
写真上:彼らの世界への入口(カヤネズミの巣)
写真中:昼間は寝ているかも……(アカネズミ)
写真下:巣から出て「空を飛ぶ」アズマモグラ
〔多摩動物公園南園飼育展示係 由村泰雄〕
(2009年09月18日)
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