多摩動物公園の昆虫園では「ヒゲマダライナゴ」を飼育し、展示しています。ヒゲマダライナゴは、国内では宮古島、石垣島、西表島、与那国島などの亜熱帯の島々に生息するイナゴの一種です。飼育してみた結果、ヒゲマダライナゴは「年1化性」、つまり、1年に1回発生するようです。
昨年(2008年)8月25日と9月1日、卵の詰まっている「卵嚢」(らんのう)を採取することができたので、温室内(真冬の最低気温18℃)と恒温器(約33℃)に入れたところ、なかなか孵化せず、約7か月後の2009年3月25日、やっと孵化が見られました。最後の孵化(1匹のみ)は6月1日で、どうやらいっせいに孵化するわけではないようです。
最初に孵化したと思われる幼虫のうち、オス1匹が5月26日に羽化。また、6月上旬には雌雄各1匹が羽化しました。成虫の数が増え、幼虫も大きくなったので、やっと展示にこぎつけました。生息地での羽化は、おもに6月末から8月上旬と言われていますが、昆虫園では少し早く羽化しました。
「イナゴ」と聞くと小さな昆虫を思い浮かべるかもしれませんが、ヒゲマダライナゴの体長は、オスが43~48ミリ、メスは56~68ミリほどにもなります。トノサマバッタのメスの体長が最大で約65ミリなので、ヒゲマダライナゴのメスは、ほぼ同じ大きさです。
もし生息地に行く機会があれば、食草のススキやサトウキビにとまっているヒゲマダライナゴを探してください。そっと近づくと、葉や茎の裏側にクルッと回り込んで身を隠す行動を何度も見られるでしょう。
ヒゲマダライナゴの触角はほぼ黒褐色ですが、各節の端が黄色なので「まだら模様」となり、それが名前の由来にもなっています。さらにおもしろいのは体色です。全体が青緑色の個体と、青緑色に加えて脚や胸が黄色を帯びる個体の2系統が現われるのです。他のバッタやイナゴには見られない特徴的な色彩なので、一見の価値があるイナゴ君ではないかと思います。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 三枝博幸〕
(2009年06月19日)
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