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トウワタのわな
 └─2008/09/12

 多摩動物公園の昆虫生態園では、チョウのえさとして水でうすめたハチミツを毎日与えていますが、温室内に植えられた植物の花も蜜を提供してくれます。花にやってくるチョウの種類は、以下のとおり、植物の種類によって少しちがいます。

 ランタナ(クマツヅラ科)の花──シロオビアゲハ、ナガサキアゲハ、モンキアゲハ、ベニモンアゲハ、キチョウ類、スジグロシロチョウ、イシガケチョウ、タテハモドキ、リュウキュウムラサキ、スジグロカバマダラ、オオゴマダラ、ツマムラサキマダラ、アサギマダラ、リュウキュウアサギマダラなど。

 ペンタス(アカネ科)の花──シロオビアゲハ、ナガサキアゲハ、モンキアゲハ、ベニモンアゲハ、ツマベニチョウ、キチョウ類、オオゴマダラ、タテハモドキなど。

 ナガボソウ(クマツヅラ科)の花にはシロオビアゲハ、アオスジアゲハ、ツマベニチョウ、モンシロチョウ、キチョウ類、アサギマダラ、リュウキュウアサギマダラなど。

 熱帯アメリカ原産のトウワタ(ガガイモ科)の花は、ほぼ一年じゅう開花しています。花をよく観察すると、赤い花冠(花びら)が、一見おしべのようにも見える橙色の副花冠を取り巻いており、副花冠の内側には、おしべとめしべが合着したずい柱(肉柱体)があります。

 ツマムラサキマダラがトウワタの花のまわりでバタバタしていることがときどきありますが、ストローのような口は丸まったままなので、蜜を吸っているわけではありません。よく見ると、4本ある脚(2本の前脚は退化)のうち、1本の脚の先が、副花冠とずい柱の間にはさまって抜けなくなっていました。

 トウワタの副花冠とずい柱の隙間は基部に向かって湾曲しています。蜜を吸いに来たり、産卵の途中で花に脚をかけたりしたとき、この「わな」にかかってしまうようです。このような事故はツマムラサキマダラのメスがもっとも多く、キチョウの一種でも見られました。

 しばらくすると、わなから抜けるようで、かかりっぱなしということはないようです。トウワタの花には、シロオビアゲハ、ツマベニチョウ、スジグロカバマダラ、アサギマダラなども集まりますが、これらのチョウは脚の力が強いせいか、引っかかっているのを見たことはありません。

 東京動物園協会発行の昆虫雑誌「インセクタリゥム」のバックナンバーを見ると、トウワタと同じくガガイモ科のガガイモの花で、タマナキンウワバ(ガの一種)が、口吻をおしべの柄と子房にはさまれ、死んでいたという記録が掲載されていました(1970年4月号)。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 高橋秀男〕

(2008年09月12日)



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