日に日に寒さが増し、鍋料理がおいしい季節になりました。鍋にいれる海の幸といえば、鱈(タラ)、鮟鱇(アンコウ)、鮭(サケ)などが思い浮かびますが、今日はちょっと贅沢な具材「鯥」(ムツ)のお話です。
日本にいるムツ科の魚は、ムツとクロムツの2種です。葛西臨海水族園にいるのはムツの方で、「深海の生物」コーナーで展示しています。のどぐろの名で有名なアカムツや、淡水魚のカワムツなど、和名にムツとつく魚はほかにもいますが、じつはどれもムツ科ではありません。
ムツがくらしているのは、水深200~700メートルの深海です。目と口が大きくて、いかにも深海魚らしい風貌をしています。深海にいるムツを釣りなどで採集すると、急激な水圧変化で魚体にダメージが出てしまうので展示には向きません。ところが、生まれてから一年足らずの若いムツは、水深数十メートル程度の沿岸に群れでいます。この比較的浅い海にいる小型のムツは採集しやすく、水圧変化の影響が少なくてすむので、水族園では夏から秋にかけて、定置網漁で採集しています。
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「定置網漁で魚をとる」(2004年10月15日)
水族園に来たばかりのムツは、全長15センチほどで、大人よりも黄色っぽい体色が特徴です。小さい個体は深海魚らしさに欠けるため、デビューするまで、裏側の水槽で飼育します。早く大きくなるよう、毎日キビナゴやオキアミなどを与えているのですが、このとき私たち飼育係が気をつけているのは、餌を広く撒くことです。ムツの口には鋭い犬歯があり、少しの餌にムツたちが集中して突撃すると、その歯で、お互いの大きな目を傷つけてしまいます。いかつい顔をしていますが、意外なところに弱点のある魚なので、飼育する際にはなかなか気を使います。
このようにして大きくなったムツたちが、ようやく展示水槽にデビューしました。元から水槽にいた全長50センチほどの先輩ムツに比べると、まだ半分くらいの大きさですが、負けずに元気に泳いでいます。ムツの全長は最大1メートルにまでなるそうなので、これからもどんどん育っていくことを期待しています。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 堀田桃子〕
(2011年12月09日)