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続・耳を澄ませば──鳴く魚
 └─2008/01/11

 昨年(2007年)11月9日配信の「ズー・エクスプレス」No.350で、ほとんどの魚は鳴かない、と書きました。今回は、魚だって鳴くんだぞ、というお話です。

 魚が鳴く、というのは昔からよく知られていて、名前の由来が「鳴き声」の魚も少なくありません。ここでは、身近な「鳴く魚」を紹介しましょう。

 まず、「ホウボウ」という魚(写真)。幅の広い鮮やかな胸びれがチョウの翅のような魚です。諸説ありますが、鳴き声が「ホウホウ」と聞こえるので、ホウボウと呼ばれているようです。体内にある浮きぶくろを筋肉で振動させ、音を発することができます。

 次に「シログチ」、別名を「イシモチ」「ニベ」。少し黄味がかった銀色の地味な魚で、「グーグー」といった音を出すそうです。釣り上げた漁師いわく、鳴き声が「文句言ってるみてえだから、グチだ」そうな。ちなみに、愛想がない、そっけないことを「ニベもない」といいますが、この表現もこの魚の名前からきてるとか。こちらも浮きぶくろを振動させて音を出します。

 最後に、「ギバチ」という魚、別名「ギギ」。ナマズ目ギギ科に属する魚です。「ギーギー」鳴くから「ギギ」です。胸びれのトゲとその付け根の骨をこすり合わせて音を発するそうです。こちらは、鳴くといっても、「虫」の鳴き方に似ています。

 この「ギギ」という魚、歴史にもちょっと顔を出します。徳川家康は子だくさんで知られますが、その第二子に結城秀康という人物がいます。嫡流ではなかったので、生まれたときから家康にうとまれ、豊臣家に人質として差し出され、後に結城家を継いだ人です。家康はこの子に興味がなく、存在すら無視していたようですが、家康が最も愛した子とされる嫡男の信康から「名をつけてあげてください」と叱られ、やむなく「ギギに顔が似ている、ギイと名づけろ」といったとか。ゆえに幼名を於義伊(おぎい)、長じて於義丸(おぎまる)。以上、余談。

 とにかく、鳴き声が名前の由来になっている魚は意外に多いものなのです。一つには、「魚が鳴く」という特徴が、昔の人々にもきわめて印象的だったからでしょう。ホウボウは「東京の海」エリアの「東京の漁業」水槽に、また、ギバチは「水辺の自然」エリアの「池沼」水槽で展示しています。見つけたら耳をかたむけて、魚のおしゃべりやグチにもつきあってやってください。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 飛田英一朗〕

(2008年01月11日)



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