ニュース
ペンギンの「ヘッドモルター」
 └─2007/10/12

 “モルト”とは、鳥類の換羽(羽の抜け換わり)のことです。フンボルトペンギン属のペンギンの場合、頭の部分だけが換羽し、そこだけが成鳥の模様になる幼鳥がときどき現われます。こうした個体は「ヘッドモルター」(頭部を換羽した個体)と呼ばれています。

 さて、フンボルト属に属するケープペンギンは、群れで魚を追って採食するのですが、その群れの中に幼鳥が混じることを嫌います。それは、幼鳥の潜水能力が劣っていることにくわえ、成鳥に見られるような白黒模様ができあがっていないためです。つまり、捕食の際、魚群を惑わせるのに役立つとされる白黒模様が幼鳥にはないからなのです。そのせいで、幼鳥は成鳥の攻撃を受けることがよくあります。

 しかし、研究によれば、ヘッドモルターはほかの幼鳥にくらべ、攻撃を受けにくいといわれています。ヘッドモルターは、幼鳥でありながら、頭部だけ換羽し、成鳥模様によっておとなたちをだまし、うまくグループに加わり、食べ物にありつくことができるのです。これは、一種の擬態のようなものかもしれません。

 頭部だけ換羽するのは不思議ですが、換羽をするためには大きなエネルギーが必要なので、海で浮かんでいるときに水面から出て見える部分だけを換羽するのでしょう。しかし、それほど有利なのであれば、なぜもっとヘッドモルターが増えないのでしょうか。やはり、幼鳥はエネルギーのゆとりがないのでしょうか。

 さて現在、葛西臨海水族園のフンボルトペンギンの中にも、ヘッドモルターが1個体います。頭の下は幼鳥模様のままですし、黒い胸バンドもないので、ペンギンテラスから見てもよくわかるはずです。ぜひ、さがしてみてください。

 なお、飼育下では、幼鳥が攻撃されやすいということはありません。また、採食時に群れで行動する必要性もないので、ヘッドモルターになるメリットはほとんどないと思われます。

写真
 中央に立っているのが「ヘッドモルター」。左2羽が成鳥。右側で腹ばいになっているのは幼鳥。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 福田道雄〕

(2007年10月12日)



ページトップへ