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子育てだって一生懸命、スパイニークロミス──2006/11/25

 葛西臨海水族園「世界の海」エリアの「グレートバリアリーフ」水槽で、現在、スパイニークロミスの両親が卵を守っています。スパイニークロミスは体長15センチほどになるスズメダイのなかまです。岩やサンゴの陰に産みつけた 100個近くの卵を、敵に食べられないよう、孵化するまで親が守ります。このメールマガジンが配信されるころには、孵化している頃かもしれません(と書いた後、入稿直前の11月23日に孵化しました!)。

 「なんだ、卵を守る魚なんてたくさんいるじゃない」と、読むのをやめようと思ったあなた。ちょっと待ってください。今回紹介したいのは孵化後の行動なのです。

 たしかに、同じスズメダイのなかまなど、親が卵を守る魚はたくさんいます。しかし、孵化した子どもはほったらかしにされてしまいます。ところがこのスパイニークロミス、 200種以上知られているスズメダイのなかまでは唯一、また海にすむ魚としては大変珍しく、「子育て」をする魚なのです。

 スパイニークロミスの子どもは孵化時の体長が約5ミリと比較的大きく、群れを作って親の近くでくらします。両親は約1か月間、子どもたちをかくまうようにして守り育てます。

 水槽にいるヘラヤガラなど、魚食性の魚にとって小さなスパイニークロミスの子どもはおいしそうな餌に見えるにちがいありません。しかし、そうした魚が子どもにそっと近づいていっても、両親に激しく追い払われてしまいます。その攻撃はかなり強烈です。水槽に潜って掃除をしているとき、不用意に手を近づけるとかみついてきますが、思わず「イテッ!」と水中で声を出してしまうほどです。

 親の貢献は敵を追い払うだけではありません。子どもが体長1センチくらいになると、子どもたちが親の体を突っつく行動がときどき観察できます。親が体表から出す粘液を、子どもたちが食べているのです。現在、「グレートバリアリーフ」水槽に何尾かいる全長7センチほどの小型のスパイニークロミスも、両親の保護を受けてこの水槽で無事に育った子どもたちです。

 さて、懸命に子育てするスパイニークロミスを見ているとほほえましくもありますが、自然の海では意外な生態が報告されています。繁殖期の初めのころ、保護しているはずの子どもたちを親が攻撃して追い出すところがしばしば観察されるのです。そして同時に、そのまわりでは、守っている子どもの数が急に増える別のペアが確認されます。

 どうやら、自分の子どもたちを追い出し、子育て中の他のペアにあずけているようなのです。長いあいだ自分たちで子どもを保護するより、他のペアにあずけて育ててもらい、自分たちは次の卵を産み、繁殖期全体での子どもの数を増やそうという戦略です。う~ん、やっぱり生き物ってすごい。

 今、水槽の中には産卵が可能なスパイニークロミスが2ペア育っています。うまくすると今後、この「子あずけ合戦」が見られるかもしれません。

(写真は岩井修一撮影)

〔葛西臨海水族園飼育展示係 多田諭〕

(2006年11月25日)



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