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この穴、なんの穴?──9/26
 先日、葛西臨海水族園の目の前にある「西なぎさ」に調査にでかけると、妙なものを見つけました。潮がひいた干潟に、たくさんの穴があるのです。穴というより「くぼみ」といったほうがよいかもしれません。

 どれも同じぐらいの大きさで、きれいなすり鉢状をしています。10個以上はあるでしょうか。砂の上にポコポコとあいている穴は、まるでクレーターのように見え、とてもふしぎな光景です。

 潮干狩りの人が堀ったのでしょうか? それにしては、いずれも寸法をはかったようにピッタリ同じ大きさ。これほど几帳面に貝を掘る人がいるとは、ちょっと考えにくいですね。

 同じような穴は何度か目撃しましたが、人がまだ来ないような早朝に見たこともありました。では、犯人は魚? 鳥? 穴は直径30センチちかくありますから、けっこう大きな生き物?──この穴をつくった犯人は、水族園にもいる魚かもしれません。行ってみましょう。



 場所は、水族園の「なぎさ」の水槽です。東京湾の磯で見られる生き物を展示しているこの水槽には、イシダイやカワハギといった魚のほかに、マダコ、イセエビなどもいます。

 さて、その生き物は、どこにいるでしょう? いつもは砂の中にもぐって、目と、ムチのような尾だけをのぞかせているか、水槽のいちばん深い部分で底をはうように泳いでいるのですが……。

 いました! 大きなうちわのようなかたちをした魚、「アカエイ」です。頭の部分と胸びれがくっついて、一枚の板のようになったペッタンコの体、そこからピンとでた長い尾、とてもユニークなすがたの魚です(写真は、上野動物園・旧水族館のアカエイ)。

 アカエイは、東京湾でもっともふつうに見られるエイで、水温が高くなる春から夏、浅い砂浜や干潟をおとずれます。東京湾の奥にある葛西臨海公園の西なぎさにでもすがたが確認されています。

 このエイは、砂の中の二枚貝やゴカイ、エビなどを掘り出して食べるのですが、餌をさがすとき、胸びれで砂をまきあげる行動が、ダイバーなどによって観察されています。そしてその後には、体の大きさと同じぐらいの穴ができるそうです。

 どうやら、西なぎさの穴を掘った犯人は、アカエイである可能性が強いというわけです。ただの穴も、「アカエイの食事の跡」と思ってみると、まったく違うものに見えませんか?



 水族園では残念ながら、アカエイが砂の中の餌を食べるようすはご覧いただけませんが、水槽の底に落とした餌を、大きな胸びれをバタバタとはばたかせながら探しまわり、お腹側にある口で食べるようすを観察することができます。

 食事の時間は毎日午後1時から1時半です(日によって変わることもあるのでご了承ください)。同じ水槽にいるマダコやネコザメなどが見せる、興味深い食事風景とあわせて、ぜひご覧ください。

〔葛西臨海水族園調査係 天野未知〕



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