海の生き物のなかには、私たち人間の想像を超えた、奇妙キテレツなすがたをしているものが少なくありません。そんな生き物につけられた名前には、そのすがたをじつにうまく表現した「言い得て妙」なものがあります。「テヅルモヅル」という名前もその好例です。漢字で書くと「手蔓藻蔓」。いったい、どんな生き物なのでしょう?
水族園の深海の生物のコーナーにある薄暗い水槽をのぞくと、植物のつるがからみあったような、球状のかたまりがいくつか見えるでしょう。これが「オキノテヅルモヅル」と呼ばれるテヅルモヅルのなかまです。
植物のように見えますが、じつはヒトデに近縁のクモヒトデのなかまです。ヒトデといえば、きれいな星形していて、5本の腕(足ではなく「腕」)をもつ生き物。テヅルモヅルもよ~く見てみると、中心部に球状のかたまりの円盤状の体があり、そこからつる状の腕が出ているのがわかります。
さらに、もじゃもじゃでわかりにくいのですが、根元部分をよく見てみると、体から出ている太い腕は、ヒトデと同じく5本。この腕がつぎつぎと枝わかれを繰り返し、もじゃもじゃを作りあげているのです。
ところで枝分かれしたたくさんの腕には、なにかよいことがあるのでしょうか? 水槽内のテヅルモヅルを見ると、つる状の腕をアンテナのように広げている個体がいるかもしれません。じつは、テヅルモヅルは、水中を流れてくる小さなプランクトンや有機物を、枝分かれした腕でとらえて食べているのです。(くわしくは「ズー・エクスプレス」No.51 の記事「モジャモジャの正体は?」↓をごらんください)。奇妙なすがたにも、ちゃんと理由があるんですね。 https://www.tokyo-zoo.net/ROOT/express/express_back?record=52
ところで、オキノテヅルモヅルの属名は Gorgonocephalus。これは、ヘビの髪と毒の牙をもつギリシャ神話の怪物「ゴルゴンの頭」にちなんで名づけられたそうです。なるほど! ちなみに千葉の漁師のあいだでは、このなかまは「アデランス」と呼ばれています。「アデランスが捕れてるよ!」と言われて、びっくりしたことがあります。みなさんなら、どんな名前をつけますか?
〔葛西臨海水族園調査係 天野未知〕
写真 大きくなるほど「モジャモジャ」になります。
(2006年5月12日)
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