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待ちぶせして獲物をつかまえるヒザラガイ、
 ベイルドカイトンの展示──2006/04/21
 海底を歩いていると、急に頭上から襲いかかる黒い影! 気づいたときには、落ちてきた大きな肉の壁と海底の岩にはさまれて身動きができません。もがいているうちに、肉の壁にある口に運ばれ飲み込まれる──もし、あなたが小さなエビだったら、今回カナダ沿岸に展示した「ベイルドカイトン」は、こんな恐ろしい敵になるかも……。

 「ベイルドカイトン」を訳すと「ベールをかけたヒザラガイ」。いったいどんな生き物なのでしょうか?

 ヒザラガイのなかまなら、みなさんも磯で見たことがあるでしょう。磯の岩の上にピタッと張りついている小判形の生き物で、ゆっくり移動して、岩の上に生えた海藻や付着生物をかじってくらしています。見た目にはまったく動かずにじっとしている、地味でおとなしい生き物です。

 ところが、ベイルドカイトンはじつにユニーク。自分でエサを捕まえてしまうヒザラガイなのです。どのようにするかというと、岩にはりついたまま体の前半部をぐいと持ちあげ、このポーズで獲物を待ちます(ニュースページのイラスト参照)。彼らの体の表面は、小さな海藻のような突起があったり、付着生物で覆われたりしていて、岩肌そっくり。カモフラージュもばっちりです。

 そして、ゴカイやヨコエビなどの小さな生き物が通りかかると、持ち上げていた体を打ち降ろし、キャッチ! ほかのヒザラガイからは想像もできないアクティブさです。また、ヒザラガイのなかまはふつう、きれいな楕円形をしていますが、ベイルドカイトンの体前部は、効率よく獲物を捕らえるために、やや広がっています。

 ベイルドカイトンは小動物をとらえて食べるだけではなく、ふつうのヒザラガイのなかまと同様、岩の上の付着生物もかじりとって食べます。

 それにしても、彼らはどのようにして、この大ワザを獲得したのでしょう?たまたま体の下に迷いこんだエビがおいしくて、こんな変わった戦術をあみ出したのか? それを考えると、じつに興味深い生き物です。

〔葛西臨海水族園調査係 天野未知〕

(2006年4月21日)



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