(下記ヤマメの展示は、個体死亡にともない、2006年1月18日に展示を終了しました。)
葛西臨海水族園は海の生物ばかり、と思っている方も多いかと思いますが、ガラスドームを出た後の帰り道、屋外に「水辺の自然」コーナーが続いていることをごぞんじでしょうか?
「水辺の自然」では日本の淡水魚や両生類、水草などを展示しており、一角にある「渓流」水槽では、おもにイワナ、ヤマメ、カジカ、ボウズハゼなどを展示しています。すでにお伝えしたとおり、ここにあらたな水槽を設置し、2005年12月1日からヤマメの卵と稚魚の展示を始めました。卵は、東京都農林水産振興財団奥多摩さかな養殖センター(旧・東京都水産試験場奥多摩分場)で10月末と11月上旬に生まれました。これを水族園が11月下旬にゆずり受けたのです。卵の直径は4~5mmで、全体にオレンジ色をしています。卵が到着したときにはすでに発生が進んで眼ができており、稚魚が卵の中で動くところも確認できました。
卵は裏側の水槽で約1週間経過観察してから、展示水槽に入れました。卵は底に沈む「沈性卵」です。孵化間近で卵膜が弱くなっているため、砂利の上に静かに移したところ、展示開始後、徐々に孵化が始まりました。最初に孵化した稚魚のからだには、色素が黒くあらわれてきました(右の写真をごらんください)。ふくらんで見える透き通ったオレンジ色の袋は「さいのう」(臍嚢)といい、生まれたばかりの稚魚はこの袋を水槽の底につけてじっとしています。彼らは、さいのうの栄養を吸収しながら少しずつ大きくなるのです。
じつは葛西臨海水族園の「渓流」水槽では、例年、紅葉の時期になって水温がさがり始めると水槽内でヤマメの産卵行動が観察されています。何度か卵を回収してみましたが、残念ながら孵化にいたったことはありません。
ヤマメなどサケ科の魚は、多数の研究機関で研究されており、生態や卵発生についてもすでに多くのことがわかっています。ヤマメの卵や稚魚の成長は水温に左右されますが、孵化などの各成長段階に必要な目安には、「積算水温」というものが使われます。これは1日の平均水温を日々加算したもので、受精後、眼ができるまでが約 300℃、孵化までにはさらに約 180℃かかります。そして、孵化した稚魚が浮上して泳ぎ回るまでには、さらに約 400℃が必要になります。現在、水槽の水温は8℃なので、稚魚展示開始から約50日後の2006年1月20日頃には元気に泳ぐ稚魚が見られると思います。稚魚のすがたを見に「水辺の自然」コーナーまでおいでください。
〔葛西臨海水族園飼育係 杉野隆〕
(2005年12月31日)
(2006年1月20日、展示終了について付記)
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