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「生きた化石」、パラオオウムガイ──5/2

 オウムガイやイカ・タコなど、頭足類の祖先は5億年前にあらわれたと考えられています。

 頭足類はその後、オウムガイのなかま、アンモナイトのなかま、イカ・タコのなかまにわかれていきましたが、アンモナイトは恐竜と同時期の6500万年前に絶滅し、イカ・タコのなかまは、進化をとげて現在のようなすがたになりました。

 一方、オウムガイは5億年前から、基本的な体の構造は変えずに生き残ってきました。オウムガイが「生きた化石」といわれるのも、そのためです。

 昨年から深海のコーナーで、パラオオウムガイを展示しています。でも、ふだんはあまり目立ちません。というのも、「ふた」の役目をする頭巾(ずきん)を閉じぎみにして、水槽のすみの方でじっと浮かんでいるか、イカ・タコの腕にあたる「触手」で水槽の壁面などに吸いついているだけだからです。

 でも、餌の時間になると頭巾を開き、触手で餌をとらえて食べます。イカ・タコの腕は、それぞれ10本と8本ですが、オウムガイの触手は数十本もあります。しかも、オウムガイの触手は付け根の方が「さや」におおわれていて、必要に応じて出し入れするしくみになっているのです。

 また、餌をつかまえると、まるで嬉しくて踊り出すかのような動きを見せます。じつは、オウムガイの触手の下の方には「漏斗」(ろうと)とよばれる器官があって、ここから水を吸い込んだり、吐いたりするのですが、餌をつかまえると興奮して、水の出し入れを頻繁におこなうため、踊るかのような行動になるのだと思われます。

 オウムガイは重い殻を背負いながら、たいてい浮遊して生活しています。これには、殻の構造に秘密があります。つまり、軟体部(本体)の奥の方はいくつもの小部屋(隔室)にわかれていて、そこに気体が入っているのです。

 殻の奥に向かって、隣接していくつもならぶ隔室は、その中央をつらぬくかたちで「連室細管」という管で結ばれており、連室細管は体液を運んでいます。隔室のうち、軟体部に近い隔室には「カラメル液」とよばれる液体が入っていますが、体液の浸透圧を調節することでカラメル液の量も変化し、浮力を微妙に調節しているといわれています。

 ただし、カラメル液の量の調節速度は遅く、急激な浮力の調節には別のメカニズムがはたらくと考えられます。

 オウムガイのなかまは、ふだんは水深200~500メートルで生活していますが、パラオでの追跡調査によると、夜間は水深 100メートルより浅いところに浮上するという結果も報告されています。いずれにしても、オウムガイの急速な浮上、潜行のシステムには、まだ不明な部分も多いのです。

 ところで、殻のすがたがオウムのくちばしに似ているところからオウムガイとよばれるようになったのですが、西洋ではノーチラス(nautilus 船乗り)といわれます。浮上・潜行する生物の代名詞のようにあつかわれ、たびたび潜水艦の名前に使われています。

〔葛西臨海水族園調査係 池田正人〕

(2003年05月02日)



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