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「子づくり」もハイスピードで! スマの繁殖行動──2005/7/29
 今回は、マグロのなかま、「スマ」のダイナミックな産卵のようすを紹介しましょう。場所は、マグロのなかまを展示している「大水槽」。時間は午後2時から3時ごろ、ふだんは十数尾ほどの群れで泳いでいるスマたちに変化が訪れます。2尾から4尾ほどが、群れて追いかけっこをしていたかと思うとパッと散る行動が、散発的に起こるのです。

 群れの構成をよく見てみると、1尾を何尾かが追いかけているのがわかるでしょう。じつは先頭の1尾がメスで、追いかけているのはオスたち。この追いかけっこは「追尾」とよばれる繁殖行動です。

 さて、やがて、追いかけっこは徐々にヒートアップ。先頭のメスは、「ついてきなさいよ!」といった感じで、水槽の中を右に左に、上に下に、すばやいターンで泳ぎ回り、加速していきます。
 オスはオスで、メスのお腹に頭を押しつけるようにして、必死で追いかけます。中には、左右に強く振られるメスの尾びれでビンタを受けるオスもいるのですが、それでもおかまいなし。白銀の体色がメタリックグリーンに輝き、すべてのヒレがピッと立ち、必死さ(?)がひしひしと伝わってきます。ときには、水槽の中で複数の群れがそれぞれ激しい追いかけっこを繰り広げ、スゴイ迫力。
 そして、追いかけっこが最高潮に達したとき、群れから白い帯が! オスが放った精子の帯です。メスも同時に直径1ミリほどの小さな卵をたくさんばらまき、卵と精子は水中で受精します。いくつかの群れが同調するように、いっせいに産卵・放精するときもあり、水槽全体が白く濁ってみえるほどです。

 それにしても、オスを試すかのように高速で逃げるメスの行動にはどんな意味があるのでしょう? 自然でのマグロの繁殖行動は観察例が少なく、ほとんど知られていません。しかし、結果的に高速で逃げるメスに追いつけるオスだけが子孫を残すチャンスを得ることから、少しでも速く泳ぐことのできる子孫を残すための戦略とも見えます。餌の少ない外洋で、餌を求めてひたすら高速で泳ぎ続けるくらしに適応したマグロならではの繁殖方法なのかもしれません。

 スマの産卵は、残念ながら、必ず見られる、という保証はできませんが、ここ1週間ほどは午後3時前後に見られることが多いようです。ぜひ、迫力ある産卵シーンを「生」で見ていただけたらと思います。(残念!だった方も、情報資料室のオリジナルビデオや、アクアシアターのビデオテックスでご覧になれます。)
〔東京動物園協会調査係 天野未知〕

写真上:スマの卵と孵化したばかりの仔魚

写真下:成魚

(2005年7月29日)



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