ある日の夕方、葛西臨海水族園にある「東京の海」エリアで閉園後の確認作業をしていると、どこからか「ぐぅ、ぐぅ!」と変な音が聞こえてきました。
機械の故障か、はたまたおばけの声か……
私はおばけが大の苦手なのですが、勇気を出して音の原因を探してみました。すると「東京湾の漁業」水槽の中から聞こえてくるではありませんか。この水槽では、東京湾で漁獲される代表的な魚を展示しており、解説パネルなどに音が出る装置はついていません。
閉園後は魚への刺激を減らすため水槽の前に黒いカーテンをかけてあるので、さらに恐怖心が募ります。

閉園後に魚への刺激を減らす黒いカーテン
おそるおそる隙間から覗いてみると、なにやら腹を震わせて音を出している魚を見つけました。この音の発信源はおばけではなく「シログチ」という魚だったのです。
私はほっとしたのですが、魚が音を出すことに驚いた方がいるのではないでしょうか。意外にも音を出すことができる魚は数種類おり、同じ水槽のホウボウや、「東京湾 運河」水槽のヒイラギも音を出すことが知られています。
3秒あたりでシログチが発する「ぐぅ」という音が聞こえる
そんなシログチがどうやって音を出しているか、釣って自宅で調理したときに調べてみました
写真の青丸で囲んだ「発音筋」という筋肉を振動させ、それを浮袋で増幅させています。
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青丸で囲ったところが発音筋 | 黄丸で囲ったところが浮袋 |
シログチのなかまは釣り上げられたときに鳴いていることが愚痴を言っているように聞こえるため、「グチ」と呼ばれることがあります。練り製品の原料として使われることも多く、「グチ入り」と書いてある正体はこの魚なのです。
この発音は日没近くの薄暗い時間帯に頻度が増すことから、繁殖行動に関係すると考えられています。葛西臨海水族園ではシログチどうしが鳴きながら追いかけているようすを観察でき、異性へのアピールとして使っているのかもしれません。

追いかけあうシログチ
シログチは閉園後に鳴いていることが多いのですが、最近は16時すぎから鳴いていることもあるので、聞きたい方は閉園前ぎりぎりが狙い目です。ぜひみなさんも水族園で不思議な音が聞こえても、怖がらずに正体を探してみると新たな発見があるかもしれません。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 坂本滉太郎〕
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