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日本固有のチョウチョウウオ、ユウゼンの展示
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 熱帯のサンゴ礁の海では、色とりどりのサンゴのあいだを、それ以上に多様な色彩や模様の魚たちが泳いでいます。そのなかでも、チョウチョウウオのなかまは、愛らしい顔つきといい、模様や色の鮮やかさといい、まさに陸上を舞うチョウと同様、とびきり目立つグループです。
 しかし、 200をこえる種がいるこのグループのなかで、「ユウゼン」は異彩をはなつ存在。全身が黒っぽく、白く縁取られたうろこ模様におおわれ、尾ビレも含め、体の後端は鮮やかな黄色です。その色模様は、名前の由来となった日本古来の伝統的な染め物「友禅染」にたとえられるほどで、じつにしぶく、味わいがあるもの。あでやかな他のチョウチョウウオに負けない存在感があります。

 また、すがただけでなく、かぎられた海でしか見られないというのも興味深い点です。ある特定の地域に分布が限られた種を「固有種」と呼びますが、ユウゼンは日本の固有種です。しかも、八丈島から小笠原諸島にかけての海域と、沖縄の西部沖の島、南大東島でしか見られません(まれに沖縄や高知でも見られるという報告があります)。
 一方、同じチョウチョウウオのなかまでも、トゲチョウチョウウオのように、南日本も含め、太平洋からインド洋の暖かい海にかけて広く分布している魚もあります。葛西臨海水族園でもトゲチョウチョウウオは「世界の海」と「東京の海」の両エリア、合計三つの水槽で展示しており、分布の広さがわかります。

 このように、ある魚は狭い海域に分布が限られ、ある魚はいくつもの大洋に広く分布しています。不思議だと思いませんか? つながっているようにみえる海にも、生物の移動をはばむ壁があり、その分布を制限しています。その壁は、陸地であったり、水温のちがう海域や海流であったり、また島のない広い海であったり、さまざまです。
 また分布は、その種の生態や生活史とも切りはなせません。さらに、地球の歴史のなかで、海や陸は気候とともに大きくすがたを変えてきましたが、その種がその歴史上、いつ、どこで生まれ、どのように分布を変えてきたか、ということにも深く関係しています。分布の不思議を解くことは、その種の歴史をさぐることでもあるのです。しかし、それは簡単なことではなく、ユウゼンがなぜこのような変わった分布をしているのか、じつはあまりわかっていません。

 葛西臨海水族園の「世界の海」では各海域の固有種を展示しているので、分布に注目しながら見てみるのも楽しいでしょう。それにしても、ユウゼンの日本的な美しさは、まるで日本のために作られたかのような錯覚を覚えるほど。ユウゼンは、「東京の海」のエリア、「小笠原の礁」で見ることができます。
〔葛西臨海水族園調査係 天野未知〕

写真上:しぶく、味わいのあるユウゼン
写真下:小笠原の海ではペアで泳いでいるところがふつうに見られる
(撮影=葛西臨海水族園調査係・田辺信吾)

(2005年5月20日)



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