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たかがナマコ、されどナマコ──1/22
 冬の水族園は水槽をゆっくりと観察するのに最適! そこで、今回は水族園ならではのユニークな観察を紹介しましょう。「え~ナマコ?! あのキュウリみたいで、ゴロンとしているやつ?」という声が聞こえてきそうですが、じっくり見てみると、じつにおもしろい生き物、しかも葛西臨海水族園では、なんと15か所もの水槽でナマコのなかまを見ることができるのです。こんな生き物、なかなかいません。

 ナマコ初心者には、まず「世界の海」コーナー、「インド洋」の水槽がおすすめです。サンゴ礁の生物を展示しているこの水槽には、底にしいてある白砂の上に黒や赤のナマコが転がっています。これだけじゃ、おもしろくない? では、ナマコの口に注目!

 口はどこかというと……、さきっぽでフサのようなものがゆっくりと動いていませんか?(写真上)。フサはくっついた砂粒を体の中に運んでいます。これは、ナマコが口のまわりにある触手(しょくしゅ)を使って砂を食べているところなのです。

 そしてナマコのまわりには、ウインナーのような砂のかたまりがあるはず。これはナマコのうんち。砂を食べて、腸でその中の有機物を吸収し、残りを出すのです。おしりの穴からプルッとうんちを出すところも、食事のようすとともに結構な頻度で見られます(写真中)。

 沖縄やグアムなどの熱帯のサンゴ礁では、真っ白い砂底にたくさんのナマコが転がっているのを見ることができます。観光客には「気持ち悪~い、こわ~い」といやがられているようですが、かれらは噛みつきも刺しもしないどころか、砂の中の有機物をせっせと食べてくれる掃除屋、ありがたい存在なのです。水族園でもかれらは掃除屋として活躍、たくさんの水槽にナマコを入れているのは、そのためでもあるのです。

 さて、次は「北極」の水槽のナマコ。砂にゴロンと転がるナマコとはちがうタイプです(写真下)。水槽の壁や岩にくっつき、木の枝状にわかれた美しいフサを花のように広げています。ときどき、フサの一本をまん中にある口に突っ込みます。このフサは、その形態から「樹手」と呼ばれ、これで水中を流れてくる小さなプランクトンや有機物をひっかけます。そしてフサを口に入れ、それらをなめているのです。水槽ではこの食事風景も観察できるかもしれません。樹手を体内に引っ込めてしまえば、キュウリ型に変身! とても興味深いナマコです。

 ナマコのなかまは、浅い海はもちろん、深い海でも暖かい海でも冷たい海でも、世界中の海で繁栄しています。かたちこそみんなキュウリ型ですが、小さいの、大きいの、赤いの、灰色の、ツルっとしたの、イボイボの、いろいろいます。水族園では、世界のさまざまな海域のナマコや深海のナマコも見ることができますよ。そして、「しおだまり」のコーナーでは、ナマコの体を間近で観察することもできるので、口やおしりの穴だけでなく、吸盤のついた「アシ」もさがしてみてください。

 ナマコの奥深いおもしろさは、残念ですがとてもここには書き切れません。みなさんもぜひ、水族園が誇るナマコ展示を、ゆっくりとお楽しみください。
〔東京動物園協会調査係 天野未知〕

写真上:クロナマコの食事風景。触手に砂粒をつけて運ぶ
写真中:アカミシキリのおしりの穴。手前のウインナー状のかたまりがうんち
写真下:ジイガセキンコのなかまの食事風景。樹手を口に突っ込んでいる。後ろの個体は樹手を体の中にしまいこんでいる



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