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オスとメスの駆け引き、クロホシイシモチ──10/25
 水族園では閉園間際の夕方になると、水槽の前でなかよく寄りそうカップルが目立つようになりますが、今回紹介するのは水槽の中の話。東京の海・伊豆七島の水槽をのぞいて、「クロホシイシモチ」(以下クロホシ)のカップルをさがしてみましょう。なんとなく寄り添いつつ泳ぐ2尾の魚、見つかりましたか。



 さらに、そのうちの1尾のアゴに注目してください。ぽっこりふくらんでいませんか? ふくらんでいれば、オスが卵を守っているのです。すこし足をとめて観察していると、ときおり口の中から卵のかたまりが、ちらっとのぞくでしょう。

 クロホシは通常、大きな群れでくらしていますが、繁殖の季節になると、群れから離れてカップルになります。そして求愛行動の末、メスが産卵した卵を、オスが口にくわえて守るのです。



 さて、卵を守るオスに寄り添うメス、二人でなかよく子育て、と思いきや、じつはそうでもないようです。クロホシとおなじテンジクダイのなかまであるオオスジイシモチ(以下オオスジ)の野外調査によれば、メスは卵を守っているオスを捨てて、あたらしいオスに走る(?)ケースが非常に多いそうです。う~ん、いいんだろうか……。しかし、その行動の裏には、一生のあいだに自分の子どもをできるだけたくさん残すための駆け引きがあるのです。



 オオスジの場合、オスの保育は水温にもよりますが、5~17日かかります。一方、メスがあたらしく卵をつくるには、最短で4日。つまり、メスはオスの保育が終わるのを待っているよりも、4日後にべつのオスと産卵した方が、繁殖期間中に、より多く産卵できるはずです。子(自分の卵)と夫を捨てて、あたらしいパートーナーとくっついたほうが、メリットが大きいのです。

 しかし、オスもやられっぱなしではありません。なんと、メスが産卵を終えて去ってしまったあとで、卵を食べてしまう行動が観察されているのです! なかのいいカップルと思ったら、オスもメスもじつに利己的にふるまっているのですね。



 水槽の中のクロホシの場合、水槽内のオスとメスの割合など、さまざまな条件によって、駆け引きのあり方のも変わってくるでしょう。でもときおり、まわりはカップルばかりなのに、一人ぼっちで卵を守っているオスが見られます。「捨てられたの? まさか、卵を食べちゃうつもり?」──そんなことを考えるとワクワクするのは、私だけでしょうか。

〔葛西臨海水族園調査係 天野未知〕



(写真はクロホシイシモチのペア。下あごがふくらんでいる手前の個体が、卵を保育中のオス)



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