みなさんは「コアマモ」をご存じですか? コアマモは河口近くの干潟などに生息する海草のなかまで、北海道から沖縄まで日本各地に広く分布しています。葛西臨海水族園の東京の海エリアには、「アマモ場」水槽や「アマモ場の小さな生物」水槽があり、アマモとそこにくらす生物を展示していますが、今回ご紹介するコアマモは、そのアマモにとても近い種類の海草です。「渚の生物」水槽にできる小さな干潟で、青々と茂っているようすをごらんになれます。
「渚の生物」水槽は、人工で干潮と満潮を作り出しており、水が最も引いたときに干上がる砂泥の干潟のような場所があります。5年ほど前に、コアマモの株をほんのひとかたまり植えたところ、地下茎をのばして少しずつ増えていきました。コアマモなどの海草のなかまは、このように地下茎で増えることができるほか、花を咲かせて種で増えることもできます。
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「アマモの花が咲きました!」(2010年04月30日)
コアマモの葉には少し太くなった黄緑色の部分があります。さやのような形をしていて、中で小さな花が咲き、実ができます。よく見ると、お米のような形をした実がきれいに並んでいるのがわかります。 コアマモが繁茂している場所は半屋外であることから、日当たりが非常に良い反面、雨が吹き込むと海水の塩分濃度が急激に変化します。コアマモ以外の植物や海藻が生きていくには、とても厳しい環境のようです。
また、コアマモの表面をよく見てみると、干潟にすむ細長い小さな巻貝、ホソウミニナがたくさん見られます。この貝は干潟の砂や泥の上につもる有機物や藻類を餌としています。コアマモの表面に付いたこれらの餌をホソウミニナが食べてそうじしてくれることが、コアマモの生育に役立っているのではないかと考えています。
明治時代の終わりごろ、東京湾の内湾には「にら藻」と呼ばれていたコアマモが広く分布し、大きな群落が所々に存在したという記録があります。その後、コアマモの生息場所である干潟や浅い砂地の埋め立てが進むにつれてその姿も少なくなりました。今から20年ほど前には、葛西にもまだ群落があったそうですが、今では千葉県の富津干潟などごく一部でしか大きな群落を見ることができません。
コアマモやアマモが作る群落はアマモ場と呼ばれています。東京湾に残された数少ないアマモ場は、そこにすむ魚やエビ、カニ、イカ、貝など多くの種類の生物が育つ大切な場所となっています。このようなアマモ場の役割を想いながら、水族園で元気に繁茂しているコアマモをぜひごらんください。
写真上:水中のコアマモ
写真中:水から出たときのコアマモ
写真下:コアマモの実
〔葛西臨海水族園飼育展示係 三浦絵美〕
(2012年07月20日)