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サンゴの静かな闘い
 └─2012/04/27

 暖かく水の透き通ったきれいな海には、木の枝やテーブルや岩のような形をした種類のいろいろなサンゴがくらしています。動き回らないので植物かと思われるかもしれませんが、クラゲやイソギンチャクと同じ刺胞動物(しほうどうぶつ)のなかまです。表面をよく見てみると、小さなイソギンチャクのような形をした「ポリプ」がたくさん集まり、「群体」を作ります。その群体が木の枝状やテーブル状になって全体をかたち作っています。

 サンゴの体の中には「褐虫藻」(かっちゅうそう)という藻類のなかまがたくさんすんでいます。太陽の光を受けた褐虫藻は、光合成で作った栄養分をサンゴに与え、サンゴはそれを利用して成長します。
 一方、サンゴは褐虫藻が必要とする二酸化炭素や窒素などの栄養分とともに、すむ場所を提供し、お互いにもちつもたれつの関係でくらしています。

 自然の海では、あたり一面さまざまな種類のサンゴで覆われている所があり、そのような所では、サンゴによる「ケンカ」が見られることがあります。たとえば違う種類のサンゴが隣り合う場合は、成長の早い種類が相手に覆いかぶさり、光をさえぎるように取り囲んで、すむ場所を奪ってしまいます。
 またふだんは体の中にあって食べ物の消化に使われる「隔膜糸」(かくまくし)を、体の外に出して相手に押し付ける、といった攻撃を加えることもあります。じっとして動きがないように見えますが、長い時間じっくり観察してみると、ほかの動物たちと同じように、サンゴも生きていくための競争をしていることがわかります。

 葛西臨海水族園世界の海エリアの「インド洋」水槽では、数個体のアザミサンゴを展示しています。アザミサンゴは茶色い岩の塊のようで動物には見えません。しかし水槽の中では、じわじわと闘いがくり広げられています。 

 水の流れに乗ってユラユラと漂う、透明な細長い髪の毛のようなものは「スウィーパー触手」といい、特別に攻撃力をアップした「飛び道具」です。相手の種類は同じアザミサンゴですが、敵と認めると、このスウィーパー触手を伸ばし始めます。この触手には強力な毒針があり、触られた部分は大きなダメージを受けてしまいます。
 でもご安心ください。ケンカ用の触手が触れ合わないよう、水槽のアザミサンゴは間隔をあけて配置しており、今のところは静かにくらしているので、ようすを見守っているところです。

写真:スウィーパー触手を伸ばすアザミサンゴ

〔葛西臨海水族園飼育展示係 笹沼伸一〕

(2012年04月27日)



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